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メシアの手帳

 メアはメシアに連れられて山奥の木小屋に住むことになった。数年はあの迷宮跡にいたこともあり、その身体は衰弱し切っていた。


「まずはその身体を休めるように」


 とは、メシアの言葉である。その通りだなとメアも思った。


 そして、メシアが言うには、自分の身体から推測して七歳と判断した。つまり四年はあそこにいただろう。

 木小屋での二人っきりの生活も一年が経ち、八歳になったとき、メシアが言った。


「私はもう、行くよ」

「え、どこに?」


 メシアはもう決めたことを話し始めた。そしてその目を見て、メアももう覆らないことなのだということを悟った。


「………どこに?」

「旅をして回るよ。また、救世の為に兵を増やす」


 メシアの旅の目的。それは一年前に聞いた。夜天世界へと攻め込む為の兵を各地で増やす。


「………分かった。またね」

「………ああ。そして、君に渡したいものがあるんだ」

「渡したいもの?」


 メシアは懐から一つの本を取り出した。メアは受け取ると疑問を口にする。


「なに、これ?」

「私の戦闘技能を記した手帳だ」

「戦闘……技能?」


 パラパラとめくってみれば、確かに図式と言葉で書かれている。


「手本があるのと、ないのとでは余りにも違うが、その手帳があるのとないのとでも、はるかに違うだろう」

「………」

「頼むよ、メア」

「ありがとう」


 それが、この木小屋での最後の会話。これ以降、メシアは木小屋に帰ってくることは無かった。



 メシアが出ていった翌日、メアは手帳をめくっていた。


「まずは、読んでみるか」


 メアは手帳に目を通す。そして、その感想はーーー


「出来るかこんなもん」


 であった。なんとなく、あの迷宮跡のメシアの無双ぶりを見て、察していたが、やはり人間業じゃ無かった。


「でも、魔術とかもあんのか」


 メシアがくれたこの木小屋、ここには一般的な魔術書もあった。しかし、それには記されていない真新しい魔術が書いてあった。

 

「なんとなく気になるから、魔術をメインに進めていくか」



 メシアが木小屋を去ってから八年後。メアが十五歳の年。


魔術式(コード):焔」


 手を伸ばした先、そこで広がる赤の魔法陣が回転し、炎の光線が放たれる。

 

 チュイーンッ!!


 的を射抜き、消し去る。精度も、速度も安定して高い。

 他に書かれていることも大体出来るようになった。


「………もう、いいかな?」


 この木小屋での物語にピリオドをつけるという意味。ここを飛び出し、救世を果たすために駆け抜けるために。


「うん、よし」


 決意を固める。八年過ごした家を見る。もう此処に帰ってくるときには、すべてが終わったときだろう。なんとなく、そんな予感がする。


(明日、出よう)



 

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