メシアの手帳
メアはメシアに連れられて山奥の木小屋に住むことになった。数年はあの迷宮跡にいたこともあり、その身体は衰弱し切っていた。
「まずはその身体を休めるように」
とは、メシアの言葉である。その通りだなとメアも思った。
そして、メシアが言うには、自分の身体から推測して七歳と判断した。つまり四年はあそこにいただろう。
木小屋での二人っきりの生活も一年が経ち、八歳になったとき、メシアが言った。
「私はもう、行くよ」
「え、どこに?」
メシアはもう決めたことを話し始めた。そしてその目を見て、メアももう覆らないことなのだということを悟った。
「………どこに?」
「旅をして回るよ。また、救世の為に兵を増やす」
メシアの旅の目的。それは一年前に聞いた。夜天世界へと攻め込む為の兵を各地で増やす。
「………分かった。またね」
「………ああ。そして、君に渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの?」
メシアは懐から一つの本を取り出した。メアは受け取ると疑問を口にする。
「なに、これ?」
「私の戦闘技能を記した手帳だ」
「戦闘……技能?」
パラパラとめくってみれば、確かに図式と言葉で書かれている。
「手本があるのと、ないのとでは余りにも違うが、その手帳があるのとないのとでも、はるかに違うだろう」
「………」
「頼むよ、メア」
「ありがとう」
それが、この木小屋での最後の会話。これ以降、メシアは木小屋に帰ってくることは無かった。
◆
メシアが出ていった翌日、メアは手帳をめくっていた。
「まずは、読んでみるか」
メアは手帳に目を通す。そして、その感想はーーー
「出来るかこんなもん」
であった。なんとなく、あの迷宮跡のメシアの無双ぶりを見て、察していたが、やはり人間業じゃ無かった。
「でも、魔術とかもあんのか」
メシアがくれたこの木小屋、ここには一般的な魔術書もあった。しかし、それには記されていない真新しい魔術が書いてあった。
「なんとなく気になるから、魔術をメインに進めていくか」
◆
メシアが木小屋を去ってから八年後。メアが十五歳の年。
「魔術式:焔」
手を伸ばした先、そこで広がる赤の魔法陣が回転し、炎の光線が放たれる。
チュイーンッ!!
的を射抜き、消し去る。精度も、速度も安定して高い。
他に書かれていることも大体出来るようになった。
「………もう、いいかな?」
この木小屋での物語にピリオドをつけるという意味。ここを飛び出し、救世を果たすために駆け抜けるために。
「うん、よし」
決意を固める。八年過ごした家を見る。もう此処に帰ってくるときには、すべてが終わったときだろう。なんとなく、そんな予感がする。
(明日、出よう)




