3-2
金属同士が軋み合う音が、耳の奥で響いた。
反射的に受けただけだ。
考えるより先に、体が動いていた。
世良龍人は、自分の手の中にある感触を理解するまで、一瞬の遅れがあった。
──受け止めた。
結衣の前に、立っている。
ナイフの刃が、わずかに震えている。
その向こう側で、フードの男がこちらを見ていた。
顔は陰で見えない、視線だけが合う。
ただそれだけで、皮膚の内側が粟立った。
まずい。
頭の中に、警鐘が鳴り響く。
ここで異能の力を使えば──結衣を巻き込む。
距離が近すぎる。近すぎるからこそ、制御を誤れば終わりだ。
背後に、気配がある。
倒れた結衣がいる。
呼吸は浅く、腹部付近の血の匂いが濃い。
生きてはいる。だが、限界は近い。
──ダメだ。抑えられない。
奴の刃が重い。
致命傷を喰らってはいけない。
過去の記憶が、嫌でも脳裏を掠める。
守ろうとして──。
力を解放し、取り返しのつかない結果を招いた。
魔龍化。
あれは、致命傷を負ったときだけ起きるものだ。
そう思っていた。
そうでなければ、困る。
なのに。
胸の奥が、異様に熱い。
恐怖なんかじゃない。
結衣が──あの状態でも、生徒を守ろうとしていた姿が、脳裏から離れない。
彼女を傷つけたアイツを──許せない。
内側から、それだけが溢れてくる。
極度に昂った感情が、何かのトリガーを引いた。
フードの男がわずかに距離を取った。
警戒している。
たった今の一瞬で、何かを感じ取ったらしい。
──まさか。
体が、軽い。
いや、軽いのではない。
研ぎ澄まされている。
傷はない。
致命傷も、もちろんない。
それでも、確かに──来かけている。
世良は、歯を食いしばった。
ここで踏み込めば、戻れなくなるかもしれない。
それでも。
背後で、結衣の微かな息遣いが聞こえた。
頭の中で、もう時間がない──そう悟った。
次の瞬間、世良は自覚するより先に──『黒刃』を振り上げていた。




