3-1
管理棟最上階から一気に下へ駆け降りる。
大股で、少しでも早く。
とにかく、走った。
生徒の間を抜き去る。
技術科の教室。
何処を探しても──彼女の姿は見当たらない。
時間が経つたび、嫌な予感と焦りだけが膨らんでいく。
息も絶え絶えになり、収穫もないまま彼女の教室を出る。
すると、誰かが話しかけてきた。
「あの、結衣ちゃんなら──さっき」
この子の姿は見覚えがある。
「君は、いつも結衣と一緒にいた──」
「親友のまゆみです。結衣ちゃんから話は聞いています。貴方の事も」
話しかけてきたのは、俺の事を知っていたからだったのか。
「それで、探しているんですよね? 私、心当たりがあるんです」
「本当か? 悪いが、教えて欲しい──」
縋る思いで、頼む。
「分かりました。最近ずっと様子が変だったから様子を見ていたんです。さっき、結衣ちゃんは、人気の少ない──技術科の校舎裏にある広場にいます」
盲点だった。
購買から既に離れていただなんて。
「分かった──ありがとう」
お礼も軽く、足早にそこへ向かう。
彼女の言っていた通り、校舎裏へ近づくほど──異様なオーラを感じ取れる。
空気が重い。
人気もどんどん少なくなっている。
まるで、戻れない場所へ向かっている気がした。
結衣は息を殺した。
強烈な圧を感じる。
何かが、息を潜めてずっと見ている。
──いる。
誰?
認識した瞬間、更に気配が色濃くなる。
無意識に刀に手を伸ばす。
広場の真ん中、ただ1人佇む彼女。
周りには死角、物陰。
彼女は、意識を集中させた。
目を閉じ、刀を構える。
確実にいる何かに。
『私は気づいている』
と、教えるかのように。
その瞬間、風の向きが変わった。
校舎の影が──動く。
足音は一切ない。
でも、極限まで高めた彼女の意識は──捉えた。
殺意を持って振るわれたロングナイフを、ギリギリで防ぐ。
身体と身体の間に刀とロングナイフを火花を散らす。
結衣の前に、その暗殺者は姿を現した。
全身が黒、フードを被っていて顔が見えない。
だが、そのオーラは今までの敵とは次元が違う。
濃厚な死の匂い。
結衣は、それを前に一歩も退く気はない。
退けば、この場所が地獄になると分かっていた。
既に──戦いの火蓋は斬られた。
決着は、死か生存か。
その二択しか、あり得ない。
初撃を受け止めた瞬間、腕が弾かれた。
──重い。
異次元の怪力。
受けることは死を意味すると理解した。
一歩下がり、体制を立て直す。
しかし、その僅かな隙を──奴は見逃さない。
フード男は間合いを詰めてくる。
心臓を狙った斬撃を、際で躱してみせる。
──速い、けれどギリギリ避けれる。
対応できる。
そう思った最中、奴は地面を抉る。
踏み込んだ先には、生徒の姿が見えた。
──まさか。
理解した瞬間、私は全力で追いかける。
狙われた生徒を助けるために──。
その判断が、致命的だった。
背中を向けて走っていた奴が、いきなりコチラを向いた。
策略により──おびき寄せられた。
ナイフが腹部を切り裂き、血が流れる。
必死に後ろへ飛んで、距離をとった。
結衣は歯を食いしばった。
立て。
ここで──倒れるわけにはいかない。
倒れたら、次はあの子だ。
重症を負うも、まだ闘志は消えていない。
あの子が離れた事を確認した結衣は、能力を使う。
「風月」
彼女が刀を振ったその時、きみどり色の風の斬撃がフード男に向かって襲いかかる。
刀を振う前から、風が色を持ち彼女に従っていた。
能力の解放で、フード男を迎撃する。
ベンチ、地面。
風の斬撃が通った所が切り刻まれる。
それでも奴は、凄まじい速度と身体能力で、躱し続ける。
能力を使っても劣勢の状況は変わらない。
背後を取られ、即座に振り向き攻撃。
だが、反応され避けられた。
奴の無慈悲な一撃は、結衣の脇腹を貫いた。
追い込まれ、瀕死の状態。
結衣は──悟った。
ここで死ぬ。
振るわれるナイフの視界を最後に、目を閉じた。
その瞬間、金切り音が響いた。
金属と金属が、削り合う音。
でも、刀はもう握っていない。
誰かが割り込んだ。
真っ暗な視界の先に、誰かがいる。
私は、理解した。
助けられたんだと──。




