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双刀炎神《デュアルブレイム》  作者: ゆりゅ
目覚めた魔の龍
7/9

2-4

ノアと別れたあとも、胸の奥のざわつきは消えなかった。

中庭の喧騒が、どこか遠くに聞こえる。

──最強殺し。

──たった一人になった上位者。

考えないようにしていた言葉が、頭の中で何度も反芻される。

「世良龍人」

不意に、背後から名を呼ばれた。

振り返ると、そこに立っていたのは一人の老人だった。

黒衣の上に学園長章をつけ、杖を突いている。

──その男は、闘戦学園の学園長、城ヶ崎賢吾。

「……俺に何の用ですか」

「少し、話をしよう」

断れる雰囲気ではなかった。

学園長に連れられた先は、管理棟最上階の応接室だった。

外の喧騒が嘘のように静かだ。

「最近、学園島で噂になっている存在を知っているね」

「……《最強殺し》のことですか」

学園長は小さく頷いた。

「正式名称は違うが、君たちがそう呼ぶのも無理はない」

机の上に、一枚のホログラム資料が映し出される。

そこには、過去に襲撃された生徒たちのデータが並んでいた。

共通点は、ただ一つ。

「全員、単独行動中の上位評価者……」

「その通り」

学園長の視線が、俺を捉える。

「君は今朝、不知火結衣から実習の誘いを受け、断ったそうだね」

「……」

黙るしかなかった。

「判断としては、間違っていない」

「……は?」

意外な言葉だった。

「感情で動くより、距離を取るのは賢い。

だが──」

学園長は言葉を切る。

「結果として、彼女は“一人”になった」

「……」

「《最強殺し》は、偶然を装う。事故に見せ、トラブルに見せ、必ず孤立した瞬間を狙う」

喉が、ひくりと鳴った。

「そして──」

学園長は、淡々と告げる。

「君は知っているかな。網羅学園最強、宮野羅生が行方不明になったことを」

「存じています」

「なら話は早い。羅生君も《最強殺し》に狙われていたんだよ」

「そんな──」

 ニュースでは、行方不明とだけ書いてあった。

 今知らされた真実。

 Sランクですら──最強殺しには勝てない。

「不知火結衣は、現在“観測対象”に入っている」

「……なに?」

「君がどう思おうと関係ない。すでに、彼女は狙われている」

胸の奥が、冷たく沈んだ。

「では、なぜ俺に?」

「簡単な話だ」

学園長は、静かに笑う。

「君は、彼女の過去を知っている。そして、君自身もまた──例外ではない」

背中と腕の古傷が、じわりと疼いた。

「奴がどんな目的であるかは定かではない。しかし《最強殺し》は、最強だけを殺すわけではない」

「……」

「最強を生み出す存在も、消す」

その言葉の意味を、理解した瞬間。

頭の中で、何かがはっきりと繋がった。

──逃げられない。

「彼女は今も、君を信じて待っているかもしれない。そんな君に選択肢は、三つある」

学園長は、指を立てる。

「何もしない」

「彼女から完全に離れる」

「それとも──」

その視線が、俺を射抜く。

「関わり続けるか」

どれを選んでも、楽な道ではない。

だが、一つだけ分かることがあった。

──もう、知らなかったふりは出来ない。

応接室を出た瞬間、空気が重く感じられた。

昼休みの学園は相変わらず賑やかで、何も変わっていないように見える。

──何もしない。

──完全に離れる。

──関わり続ける。

学園長の言葉が、頭から離れない。

廊下を歩きながら、無意識に人の流れを探す。

技術科の制服。

結衣の姿は、見えない。

(……考えすぎだ)

そう思おうとした、そのときだった。

視界の端で、誰かが立ち止まる。

生徒だ。

だが、視線が違う。

──見ている。

獲物を見る目だ。

理由は分からない。

だが、体が先に理解している。

結衣は、もう“狙われている”。

今朝、俺が拒否したせいで。

距離を取ったせいで。

彼女は、一人になった。

(……ふざけるな)

拳を強く握り、踵を返す。

選択肢は、もう残っていなかった。

現実から目を背ける時間は終わりだ。

逃げ道は──塞がれたんだから。

俺は、結衣を探して走り出した。

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