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昼休みの学園は、いつも通り騒がしかった。
購買前の列、廊下を行き交う生徒、どこからか聞こえる笑い声。
──平和だ。
少なくとも、表向きには。
弁当は全部食べた。結衣のやつだ。
……それでも、なぜか足は自然と購買に向いていた。
(考えすぎか)
Cランク任務を断ったことが、頭のどこかに引っかかっている。
だが、あれは正しい判断だったはずだ。
俺は購買で買ったパンを片手に、人気の少ない中庭へ向かっていた。
「──世良」
背後から、知っている声がかかった。
振り返ると、そこに立っていたのはノアだった。
同じ一年だが、こいつは俺とは違う意味で有名だ。
戦闘科トップ。実力主義。
少女のような見た目で、Sランク。
「何だよ」
「少し、話がある、ついてきて」
その目は、やけに据わっていた。
中庭の隅まで歩いたところで、ノアは足を止めた。
周囲に人はいない。
「さっき、購買で不知火結衣を見たの」
「……それが、どうした」
ノアは一瞬、言葉を選ぶように黙ったあと、吐き捨てるように言った。
「アンタ、本当に気づいてないの?」
意味が分からず、眉をひそめる。
「何の話だ」
「とぼけないで。今朝から、不知火に嫌な視線が集まってる」
──視線?
一瞬、結衣の顔が脳裏をよぎる。
だが、すぐに打ち消した。
「……学園じゃ珍しくもないだろ。Aランクだし、技術科じゃトップクラスだ」
「違う」
ノアの声が低くなる。
「値踏みの視線。狙ってる目なんだよ」
胸の奥が、わずかにざわついた。
「アンタ、今日の実習。不知火と組む予定だったわよね?」
「……断った」
「知ってる。だから言ってきたの」
ノアは一歩、距離を詰めてきた。
「アンタが距離を取ったせいで、今、不知火は一人なの、その意味分かってるわけ」
「それの何が悪い」
思ったより、言葉が強く出た。
「Cランクだ。何も危険じゃない」
「──ランクの問題じゃない!」
ノアが苛立ち、声を荒げる。
「最近出てる《最強殺し》の噂、知ってるでしょ」
「知ってるさ。ニュースでもやってた」
「じゃあ分かるはずでしょ。奴は一人になったトップクラスの上位者を狙ってる」
一瞬、空気が止まった。
「……証拠は?」
「……購買で、三人。廊下で一人。あの子を見てた視線、全部覚えてる」
ノアは、真っ直ぐ俺を睨みつけてくる。
「アンタ、一体何から逃げてるの?」
「……は?」
「不知火から? それとも、自分から……?」
言葉が、胸の奥に突き刺さった。
「俺は──別に」
「……もういい」
ノアは吐き捨てる。
「あの子、今朝からずっと周りを警戒してる。ああやって自分1人で抱え込んでしまうの、みてられないの」
知らなかった。
いや、正確には──見ようとしていなかった。
「あの子を守る気がないなら、最初から関わらないでくれる? 私の任務の邪魔」
「……っ」
「関わった以上は責任を持ちなさい。それが出来ないなら──」
ノアは背を向け言い放つ。
「それまでの男だったって事」
その背中を、俺は呼び止められなかった。




