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翌日。
最悪な気分で起きた俺は、居候娘にも飯を作ってやっていた。
「ほらよ、目玉焼き。知ってるか」
「バカにしてるの?」
「いいや別に」
少しくらい弄ったってバチは当たらんだろう。
その時、世良とノアの端末に同時に通知が入った。
『戦闘科──赤瀬ノア、世良龍人。至急、市街地外縁、廃墟地区へ調査に乗り出せ」
短い文言。
だが、それだけで理解出来た。
──初任務か。
ノアの言っていた通りだ。
装備を整え、指定された廃墟地区へ向かう。
市街地外縁。
一ヶ月前、異形が学園島の生徒たちを襲った事件が起きた場所に──魔力反応が確認された。
「随分あっさりした任務ね」
歩きながら、ノアが言う。
その声に緊張はない。
「調査だけ、って書いてあったしな」
「ええ。でも今になって再び魔力が強まったってことは、もしかしたら……」
含みのある言い方だったが、追及はしない。
今さらだ。
現地に到着すると、予想以上に静かだった。
崩れたビル、割れたアスファルト、錆びた街灯。
だが、風すらない。
「……人の気配、無いな」
「そうね」
ノアは周囲を一瞥し、端末を操作する。
「魔力反応が弱くなっている。完全に空振りね」
その言葉で、逆に嫌な予感がした。
「魔力──抑えているのかも」
「その可能性は低い」
あっさりと返される。
調査は淡々と進んだ。
破壊痕、残留魔力、異形の痕跡──どれも決定打に欠ける。
「本当に、何もないな」
そう口にした瞬間だった。
共鳴するかのように、愛用武器『黒刃』が微かに──震える。
と、同時。
確かに、見られている。
だがそれは、敵意とも殺意とも違った。
世良は、無意識に足を止める。
「……?」
胸の奥が、ざわついた。
嫌な感じではない。
むしろ──懐かしい。
あり得ない。
そんな感覚を覚える理由なんて、どこにもないはずなのに。
「どうしたの」
ノアが、振り返る。
「いや……なんでもない」
そう答えながらも、世良は周囲を見回す。
崩れた建物、瓦礫、影。
どこにも人影はない。
なのに。
──いる。
そう確信してしまった。
異形ではない。
刺客特有の圧迫感でもない。
同じ側に立っている何か。
その瞬間、頭の奥に、忘れかけていた記憶が掠めた。
兄。
行方不明になった、兄さん。
死亡扱いされたが、遺体は見つかっていない。
それなのに、なぜ今──。
「世良」
ノアの声で、我に返る。
「気のせいよ。魔力反応は出ていない」
「……そうか」
確かに、ノアの魔力探知でも分からないなら。
気のせいかもな。
だが、それでも。
世良だけが、はっきりと感じていた。
同じ力が、近くにあったことを。
それは、かつて兄が持っていたものと──。
酷く、よく似ていた。
やがて、その感覚は霧が晴れるように消えた。
「終わりね。今日は」
ノアは淡々と告げる。
「……今日は、か」
「ええ。今後もあるでしょうね」
それ以上、彼女は何も語らなかった。
世良が感じた違和感についても、触れなかった。
帰路。
「なあ、ノア」
「なに」
「この任務、本当にただの調査だったのか?」
一拍。
「ええ」
即答だった。
「でも──」
ノアは続ける。
「調査されていたのは、私たちの方」
その言葉に、世良は背筋が冷える。
兄の気配。
刺客の視線。
伏せられた情報。
初任務は、何も起こらないまま終わった。
だが確実に──。
何かは、もう動き出している。




