4-1 不安と緊張
戦闘が終わり──世良は束の間の日常へ戻っていた。
もっとも、それは安らぎとは程遠いものだったが。
今まで噂程度だった上位者の暗殺は、結衣への襲撃によって現実となった。
学園内は一時騒然としたものの、学園長による安全性の保証と、ノアの『私が倒す』という一言で、表向きは沈静化している。
だが、世良にとっての問題は別にあった。
「ノア……頼むから、これ以上横にいるのは辞めてくれないか?」
「どうして?」
本気で分かっていないらしい。
周囲から突き刺さる視線を、ノアはまるで気にも留めていなかった。
「皆、特に男子が俺を睨んでるんだよ……」
「そう? 私は気にしないけどね」
──お前が気にしなくても、俺は気にするんだ。
「それにアンタは監視対象よ。いつ、その力が暴走してもおかしくないの。いざとなったら──」
その視線はまるで、敵を見ているかのようだ。
言葉の続きを、世良は聞かなかった。
「せめてトイレまで付いてくるのはやめてくれ。視線が痛い」
「今更そんなこと気にするの? 意外ね」
「お前は俺を何だと思ってるんだ……」
ノアとの関係は、あくまで任務。
そう言い聞かせるしかなかった。
『戦闘科所属、赤瀬ノア。至急、管理棟最上階の学園長室まで来なさい』
──チャイムが告げる。
「私、行ってくるから。絶対に余計な行動を取らない事。分かった?」
「分かったから……普通に授業受けてるよ」
赤瀬ノアは、チャイムの指示に従い足早に進む。
学園長室。
そこは、結界と防音の魔法が施されており、特定の人物や指定された生徒しか入る事は出来ない。
塔を駆け上り、息一つ乱さず到着。
「失礼します」
ノアは、淡々と入室。
「来ましたか、早かったですね」
奥にいるのは、闘戦学園のトップ。
城ヶ崎賢吾。
杖をついているが、その立ち振る舞いは歴戦の強者を想像させる。
「あなたに来てもらったのは、他でもない。今回の事件についてです。今後の対策も交えながら話そうと思っています」
学園長は、タブレットを取り出して画面をスクロールさせている。
「まず今回の不知火結衣襲撃事件。これは予想通りでした。単独の上位者が狙われる──結衣さんは格好の的だったでしょう……ああいう子ほど、狙われる」
ノアは、頷く。
「そうね。彼女も、自ら1人の空間を作り出していたし。あの二人の蟠りをいち早く察知して、速攻で首を狩りに来た。奴は素早い行動力と観察力を持ってると考えていいわね」
「はい。幾つもの監視網を張っているでしょう。既に──闘戦学園の一部にも入ってきている」
「それはまずいわね──もしかして、その対策が議題?」
「そうです。その対策として案があります。奴の監視網は複雑化しています。そう簡単には、解けない。しかし、事件が起こった場所には必ず魔力の残留がありました」
魔力の残留。
異形と激しい戦闘を繰り広げたあの場所には、強くハッキリと、色濃く魔力の残留が残っている。
だからこそ、この対策の本質がすぐに理解出来た。
「魔力の残留が強い場所へ行き、調査する……これが対策?」
ノアは、そう確信する。
「理解が早くて助かります。ですがもう少し付け足すとしたら──世良龍人を使うことです」
──使う?
その言い方が、強く耳に残る。
「最強殺しには複数の部下を従えている。勿論、全員がSに匹敵するほどに強いと予想しています。だからこそ、世良龍人の魔龍化を使って、なるべく早く殲滅していただきたいのです」
「そう──上手くいくかしら」
その言葉の意味には、複数の意味が込められている。
「その為の、保険があなたです。赤瀬ノア」
「……そういう事」
ノアは完全に理解した。
「いざという時は──お願いしますね」
学園長の本質を。
彼を人として、見ていないことを──。




