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視界が、ゆっくりと戻ってくる。
焦げた匂いと、土の冷たさ。
結衣は地面に横たわったまま、微かに目を開けた。
「起きたか……結衣」
聞き慣れた声。
少し掠れて、荒い息を吐いている。
「りゅう……ちゃ」
無理に身体を起こそうとして、脇腹に鈍い痛みが走る。
血──。
手についた血を見て、結衣は小さく息を呑んだ。
「あんまり動くなよ。今、ノアが周辺を確認してるから」
「ごめん……迷惑、かけたよね」
その言葉に、世良は言葉を貯める。
「違うんだ」
世良は深い息で、力強く声を発する。
「俺が、迷ったから──お前を傷つけた。本当に、ごめん」
その言葉には、彼の後悔が深く刻まれていた。
「謝らないで。私が、勝手にやったことだから」
結衣は、自身の行いを振り返る。
「相談しなかったのは、迷惑をかけたくなかったから。なのに、逆にすごく迷惑かけちゃったね……昔から、そういう事多くてさ……お弁当も美味しくなかったよね? 今まで黙って受け取ってくれてありがとね──」
「違う」
遮り、短く、即答だった。
「迷惑なんかじゃない。いつも助けられてたのは俺の方だ。今日だって、お前の作った弁当すごく美味しかったんだ。だから──」
何かを言いかけて、世良は言葉を切る。
視線を泳がせた後、まっすぐ結衣の目を見た。
「だから、その……いつもありがとう」
その言葉に、結衣は救われる。
戦闘の痛みなど、忘れるほどに。
その一言が、心の奥底へ通じた。
「……ふふ、そっか」
純粋な眼差しで、誤魔化しなんてない。
その真っ直ぐな姿を見て、結衣の中で、点と点がつながった。
避けられていると思っていた。
実習を拒否され、距離を置かれていると感じた。
あの、不自然な沈黙。
「私、勘違いしてたみたい」
そう、結衣は小さく呟いた。
「明日の分も作ってあげる。ちゃんと──感想伝えてね」
「……努力する」
短い返事。
でも確かに、その一言は優しく柔らかった。
戦いは、終わった。
そして、2人の間にあった誤解の糸は、静かに解けたのだった。
それと同時だった。
結衣の意識が、再び遠のいていく。
世良は、一瞬焦った。
しかし、抱き抱えた瞬間、疲労で眠ってしまっただけだと理解し安堵する。
──良かった。
結衣を守れた。
けれど、胸の奥に残る違和感は拭えない。
血など流していないのに、確かに目覚めたあの感覚。
──条件は、一つではない。
何故かそう確信してしまった。
答えは出ない。
だが、確かなのは。
あのフード男との決着が、ついていない事だった。




