第47話「新たな刃を持つ理由」
夜明け前の王都は、まだ灰色の毛布をかぶったように静まり返っていた。
冒険者ギルドの訓練場には、冷えた空気と砂の匂いが満ちている。
アルフは槍を握り、深く息を吸い込んだ。昨日の依頼で見た騎士団の動き、迷いのない刃、仲間を守るための即断。その光景が脳裏に焼きついて離れない。
(備えはいくらあっても足りない……そういうことだ)
柄を構え、踏み込みと退きを繰り返すたび、騎士たちの間合いと風圧がよぎる。砂に刻まれる線は、迷いを削ぎ落とす練習の跡そのものだった。
しばらくすると、背後から軽い足音が近づいてきた。
「……相変わらず早いね」
寝癖を立てたリオンが、杖を肩に引っかけて立っている。眠そうな目元の奥に、昨日の緊張の残り火が見えた。
「リオンも珍しく早いね」
「昨日、正直怖かったんだ。盗賊というより騎士団の迫力というか戦いが……足が少し震えてたし」
「自分も同じだよ。でもやっぱり冒険者でーーこの世界で生きていきたい」
「……そうだね。もう少し自分に自信を持てる様になりたいし」
さらにもう一人、弓を背負ったエリンが無言で現れる。髪は湿気を含み、黒曜石のように光を吸っていた。
「リオンさん......来てるの、意外ですね」
「エリンさん!ひどいっ」
三人は軽く準備運動をして、それぞれの武器を構える。
連携は静かに始まり、呼吸と砂を踏む音だけが響く。槍で間合いを測るアルフ、回り込むリオン、射線を確保するエリン。
昨日までよりも互いの動きが読みやすく、意図的に繋げられていく。
東の空が朱に染まり始める頃、三人は武器を下ろし、吐く息を白く漂わせた。
* * *
朝のギルドは、紙とインクの匂い、そして人の熱気で満ちていた。
受付カウンターの奥にいたミーナが顔を上げ、三人を見ると柔らかく笑った。
「昨日はお疲れさまでした。騎士団の依頼……ご無事でよかったです」
「ええ……身の丈に合った依頼をコツコツやっていくのが一番だと、身に沁みました」
ミーナは少し申し訳なさそうに呟く。
「前回の調査の依頼も、危険度が高すぎましたね。無理をさせたみたいで……」
「いえ、今回の経験は非常によかったです。そのおかげで、自分たちの進む道も見えました」
アルフが言うと、ミーナは安堵の笑みを見せた。
リオンが掲示板から一枚の依頼書を取る。
「ミリバールの皮回収……たしか鹿系魔獣だよね。報酬も悪くないよ」
「でも、俺とリオンは解体経験ゼロだぞ」
アルフの言葉に、エリンが横から覗き込む。
「解体なら、多少できます。森で師匠の手伝いをしてましたから」
ミーナも口を添える。
「素材系依頼は品質を保つ回収と下処理が大事です。エリンさんから学べるなら、良い機会ですよ」
アルフは少し照れながらエリンに頼んだ。
「……恥ずかしながら、お願いできますか」
「わかりました」
その返事は、意外とやわらかかった。
だが次の瞬間、エリンの眉がぴくりと動いた。
「……それで、二人は解体用のナイフは?」
「持ってません」
「僕も」
「……それで素材依頼を受けようとしたのですか?」
呆れた声に、アルフとリオンは揃って肩をすくめた。
* * *
向かったのは、ギルド近くの武具店。油と金属の匂いが漂い、壁には大小さまざまなナイフが並んでいる。
店主が顎をしゃくって説明した。
「この200Gのは安いが刃こぼれが早い。こっちは450Gだが長持ちして切れ味も安定する」
エリンは迷わず指さす。
「高い方。皮を傷めにくいし、使いやすい」
「……スレイルスピアと同じ値段か」
アルフが小声でぼやくと、リオンが「槍とナイフで同格だなんて、世も末だね」と茶化す。
店主は肩をすくめ、「安物を買ってすぐ戻ってくるより、最初からいい物を持ちな」と笑った。
エリンは二人を見て言い切る。
「無駄遣いは薦めない。でも必要なものには投資すべき」
普段無口のエリンが熱弁する。
「物が良ければ手入れをすると長持ち。解体も手際が良くなり、無駄がない」
そんな彼女の様子に、二人は渋るのを諦め、お互い顔を合わせおどける様に頷いた。
「はい、エリン先生」
「僕も同じの買います。エリン先生」
むっとしたエリンに軽く睨まれ、二人はこっそり笑った。
革の鞘(120G)も合わせて購入。手に馴染む新品のナイフは、武器とは違う静かな重量感を帯びていた。明日の仕事の手触りが、急に近くなる。
* * *
依頼は明日から。三人は一旦別れ、アルフはノネズミ亭に戻る。
夕暮れ、裏手で槍を振る。昼よりも体は軽く、動きが繋がる。
鍛錬を終え、汗をぬぐって食堂に入ると、ザックが大皿の肉を前に座っていた。
「最近、顔つきが変わってきたな」
「おかげさまで。でも、もっと肉食えと怒られまして。身体が資本だって」
「ふっ……昔は粥とパンの耳で腹をごまかしてたくせに、偉くなったもんだ」
笑うザックに、アルフは照れながら心の中で呟く。
(……ちゃんと食べられるようになっただけでも、恵まれてる)
腰のベルトに触れると、そこには新品のナイフの感触。
その重みが、明日への覚悟を確かにしていた。
「よし……」小さく呟き、アルフは肉を口に運ぶ。
食後、部屋に戻って購入した解体用ナイフを取り出し、刃紋を眺める。
(備えて、選んで、生き延びる。そのための刃だ)
手にした刃が、炎のように確かな煌めきでそこにあった。
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毎週火曜日と金曜日に1話づつ更新中(21時更新予定)です。
【第47話 成長記録】
筋力:11(熟練度:85 → 87)【+2】
→ 早朝鍛錬と夕方の槍振り込みで微増。
敏捷:11(熟練度:69 → 70)【+1】
→ 三人での連携訓練により動きの同期が自然に。
知力:11(熟練度:30 → 33)【+3】
→ 素材依頼に必要な知識を吸収、装備投資の重要性を理解。
感覚:14→15(熟練度:99 → 100:1)【+2】
→ 仲間の動きがより読みやすくなり、連携精度が向上。
精神:13(熟練度:77 → 79)【+2】
→ 騎士団依頼後も日常の鍛錬を続け、備えの意識を実践に落とし込んだ。
持久力:16(熟練度:61 → 63)【+2】
→ 一日の始まりから終わりまで訓練・依頼準備を継続し、軽度強化。
【収支報告】
所持金:1,203G
内訳:
・前回終了時点:1,687G
・解体ナイフ購入:−450G
・革鞘購入:−120G
・朝食(ギルド食堂):−8G
・昼食(屋台):−6G
・夕食(ノネズミ亭):−10G
・宿泊費:−10G
【アイテム取得/消費】
取得:解体用ナイフ、革鞘
消費:なし
【装備・スキル変化】
武器: スレイルスピア
防具: 軽革製防具
新規装備: 解体ナイフ+革鞘
スキル:《間合制御》




