知らない噂
入学式の次の日から、授業が始まった。基礎的な座学から、この国を取り巻く他の国との関係など地理や経済のことなどを学ぶ。
訓練場では、剣と魔法に別れる。最初は、剣も魔法も同じ『心得』を教えられる。
守ることもできるが、人を傷つけることがある。時に命を奪うこともある。
扱う者は、必ず心に留め置かないといけない。
心が未熟な者は、剣も魔法も扱ってはならない。
師匠に散々言われてきたことだ。
今日の訓練には、ルディは居ないようだ。魔法の方にいるのかもしれない。ルディは魔法だから、仕方ない。
昼食はほとんどの生徒は食堂で食べる。ビュッフェスタイルで、食べれる量、体に必要な栄養のある料理を選ぶことも勉強なのだと、担当教諭が言っていた。意味を持たせることって大事なんだな。
お願いすれば、ランチボックスに料理を入れることもできる。私はランチボックスにして、日当たりの良いベンチで食べるつもりだ。
食べる前に、魔力コントロールの練習をする。体に巡らせ、次は指に魔力を貯める。体の魔力が流れている感覚はあるが、1点に集めることが難しい。
「魔法を使うことは禁止だよ」
突然声をかけられて、集めてた魔力が飛散する。横にルディが立っていた。
「あ…、すみません」
隣、いい?と聞かれ頷いた。ルディは怪訝な顔をしている。
「…他人行儀で寂しいな」
そう言われても、学園だし…私とルディは生徒と先生。時と場合を考えないと、私だけじゃなく、ルディに迷惑をかけてしまう。
持っきていたランチボックスを開けて、食べる。パンに鴨のローストとサラダを挟んだ、サンドイッチにした。
「先生、魔法がうまく発動できなくて……。このまま…魔法使えなくなるのでしょうか」
食べながら俯き、不安をこぼした。
できていたことが、できなくなると不安でどうしたらいいか分からなくなる。
「選択をしたばかりで、体が剣の方に引っ張られてるだけだよ。安定すれば、使えるようになる」
ルディに不安を話をしたから、目がにじむ。見られないように、ずっと俯いてた。
「…、……はい」
ルディはそれ以上は言わず、離れていった。
教室に戻った私を待っていたのは、ご令嬢方。ん?なぜに?
「フェルディオ殿下と、どんな関係ですの!?」
「え…っ、と」
どうやら、先ほど一緒にいた所をご令嬢の1人に見られていたのか?最初から説明するのは、面倒くさいな。
「食事していたところに、たまたまいらして」
「噂も聞きましたの!」
グイグイくる、グイグイ。うざい。
噂?そういえば、ジュリ姐さんも言ってたな。
「あの〜…噂ってなんですか?」
ご令嬢方の怖い顔がますます怖くなってる。
「貴女が、フェルディオ殿下と一緒の馬車で来て、陛下に会ったって!」
間違いではないが…それでなんで責められないといけないのか?
「隣国から連れてきた婚約者なんでしょ!」
「ええ!?」
どこから、そんな話が回ってるの?
「陛下に挨拶したあと、泊まったのでしょ?!」
「た、確かに泊まりましたが、あれは!」
教室の生徒はざわざわと「やっぱり」「本当なんだ」それぞれ騒いでいる。
弁明しようとしたが、午後の始業の鐘が響き、令嬢方も席に戻った。
とんでもない、誤解が生まれ、私を見る目が変わってしまった。
午後の授業から居心地が悪かったし、そんな噂が出回っていたなんて……授業に集中できなかった。私が通ればヒソヒソ声が聞こえるし、誤解を解きたいけど、みんな逃げていく。ロイは、聞いてくれたけど。
「あの夜、なんで2人でいるのかと思ったけど、そういうことだったのかよ」
「違う!あれはお店の人に依頼されて!婚約者じゃないから〜」
満面の笑みを見せられたが、信じてくれたのか、『まあそういうことにしてやる』的なのか……
寮でも視線が痛い。すっかり「婚約者」の噂が回り、王城に泊まったことを否定しなかったばかりに、噂は『本当』になってしまった。
「姐さん!噂ってどんなのですか!?」
訓練場で、手合わせのあと、思い切って聞いた。
「んーと、ね。殿下が留学先で出会って、見初めた女の子を婚約するために、国に連れ帰った……かしら?」
見初めた?
「一緒に馬車に乗ってきたんでしょ?ナナシちゃんのことよね」
見初められたの?私が?留学先で?いつから?
頭を抱えて、以前いた国の学園でのことを思い返す。
「お姫様抱っこで、部屋まで運んだり?食事を運んであげたり?よろけた所を抱きとめたりしたって」
それは、覚えがある……最近の出来事。
「そ、それはどこから?」
「王城のメイドがにぎやかに騒いでたわよ。騎士団でも有名よ」
もしかして、ルディと一緒にいたメイドと騎士……。
あいつらか〜!
「見つめ合う2人には、語り尽くせない深い深い愛と絆が〜『ナナ♡』『ルディ♡』いやん、もう」
姐さん…盛り上がらないで…。でも、なんで令嬢に怒りを向けられないといけないのか…。
「そりゃ、婚約をしてなかったのは、陛下と妃陛下の考え方よ。自由恋愛ってことね。だから令嬢はチャンスがある!って思ってたら〜、隣国から連れてきちゃうんだもの〜…」
そりゃ、怒る…か。……でもちょっと待って、婚約とか具体的な話は聞いてないし、学園に来てほしいと言われただけで。
「ま、気をつけなさいね。引きずり降ろしたい人たちがいるんだから」
「………」
学園生活に暗雲が立ち込めた。