エピローグ*婚姻式
婚姻式とは何か。親しい人を呼び、その人たちの前で婚姻書に記入し、教会の人だけではなく、見ていた人たちも婚姻したと証人になってもらう。
親しい人は、身内のこと。ルディのお義父さまとお義母さま、ナディーア王女、私の父さん母さん。
ゲーム世界に転生していなければ、こんな経験はなかったと思う。
身内に見守られながら、婚姻書にルディと私の名前を記入した。
「これにて、正式に婚姻は成立いたしました。殿下、妃殿下。おめでとうございます」
教会の人は、婚姻書を破損できないように、そして私たちが夫婦になった繋がりのある者として、誓約魔法を施す。
みんな、それぞれに「おめでとう」と言ってくれた。
ルディに手をとられ、左手の薬指に指輪をはめてくれた。
「婚姻の証」
ルビーを中心に、両脇に茶色の石を嵌めている。私とルディの色。
私もルディの為に用意していた、ブローチがある。
「私も…」
ブローチに使われているのは、ルビーに私の魔力を注いで作った魔力石。大きめの石だったから魔力量も多く、私の魔力がほどんど使ってしまった。値段はそれ以上でもあったけど。
「このブローチ…ナナの魔力だね」
婚約者になってから学園では我慢しているが、城に帰ると遠慮なしにべったりくっついてくる。婚姻式と結婚式の衣装を仕立てるため、サイズを測るのに、ルディを引き剥がすのが大変だった。
卒業から、ますます私から離れなくなった。
私の魔力石が、私の代わりにとして持っていて……という意味もこめている。
………が、今も嬉しさで私を抱きしめナデナデしてるから、意味がいなさそう…
「私も魔力石を作ってみるね」
「……楽しみにしてる」
すぐにでも作れそうな気がする。
婚姻書を書いた部屋から出ると、すぐ見渡せる広間がある。そこには、貴族たち、そして子息令嬢が集まっている。
「恙無く、婚姻が結ばれた。名実ともにナナは王太子妃となった」
お義父さまの宣言に、階下の貴族たちは拍手をした。
この貴族たちを呼んだのは、もう1つ理由がある。
「さて、今回お呼びした貴族と子息令嬢のみなさん。私の義娘にひどいことをしてくれたね。我が妻の出来事、まったく反省していないようだ」
「何をおっしゃいますか!」
「な、なんのことかわかりません」
貴族たちの動揺と、反論、言い訳の言葉。
私は卒業までにされた事、また私のいないところでの悪口。全てを書き留めたノートをお義父さまに渡す。
ペラペラとめくり、階下の貴族たちを見下ろした。
私のいないところでの悪口は、グレアやロイ、(留年した)メイズが記録してくれた。他にも味方になってくれた、女子生徒の協力あってのことだ。
「君たち我が妻をイジメた貴族たちだね。親が狭量な心の持ち主だから、娘息子たちが義娘を侮辱できるんだろうね」
お義母さまの時よりはノートは少ないけれど、十分私は傷ついた。
「我が妻と義娘のことで、学園が対策を講じていないとでも思ったかね?義娘の1学年のときは間に合わなかったが、2学年からは校舎内に記録をする魔道具を設置しているのだよ」
そんなことをしていたなんて、私もつい最近教えられた。他の生徒にも知らせなかったのは、知ってしまうと、のびのびと学園の生活ができなくなるから。
「このノートと、魔道具で君たちに反論の余地はなくなった」
ノートは私に返された。
親は子息令嬢に罵声を浴びせる。「お前のせいだ」「余計なこと…」
「さて、君たちの処遇だが……心を育てる学園で2代に渡り問題を起こした。私はこの者たちは成長の兆しなしと判断し、刑を与えようと考えたのだが、」
「私が反対しました」
私の考えたことは、刑より辛くなるかもしれない。でも、刑を与えてそれで終わりにさせては反省も何もなくなってしまう。
「心を鍛えるプログラムに参加していただきます。まず、みなさんは一旦、貴族位を剥奪します」
プログラムの言葉に動揺していた、貴族達は〝剥奪〟に反応し、怒号が飛び交う。
「貴族たる姿勢ができない、みなさんにチャンスを与えようとしているのですよ?」
お義母さまの一言でみんなが静かになった。さすが、お義母さま。
「みなさんで、集団生活をしてもらいます。そこでの生活は、みなさんで協力し、食事も掃除も普段使用人にしてもらっていることを、すべて自分達でしてもらいます。この生活には国費は出せません。もちろん貴族の資産は国に没収されるので使えません。生活費は、自分達で働き、その賃金で賄ってください」
貴族で悠々自適生活から、一気に汗水流して苦労する生活に転落する。
「監視人と、記録魔道具がこの生活を、みなさんの行動を見張ります。生活態度、行動で、貴族に戻れるか判断します」
多少は希望を持たせるが、すぐにクリアできることではない。
「この生活での決まり事として、」
①みんなで協力する
②規則正しい生活をする
③問題が起きたら、みんなで話し合う
「全体の決まり事はそんな感じです、次にみなさん各々に対する決まり事ですが、」
①否定的な言葉を使わない
②他人に優しい行動をとる
③相手にも自分にも褒めてあげる
「以上です」
簡単そうで難しい。それができないから、今回問題になっているのだから。
「この部屋に入る前に、腕輪をしていただきましたが、決して外れることのない魔道具です。それが記録を行い、位置を知らせてくれるものです。それを外せるのは、対の魔力石のみです」
「今日からスタートだ。1カ月間分の生活費は国から借金として出そう。みなで働いた賃金の中から返済すること。では、健闘を祈る」
現れた騎士団に連れられて、集団生活をする建物へこれから輸送される。建物は孤児院と同じ造り。
1年くらい文句タラタラで生活がまともにできないだろう。
「学園で、またあんな人たちが出てきたら、あの輪に入れたらいいわね」
そうそう現れて欲しくないけど、度合いによってはありかも。
あの腕輪は、反乱に対する抑止力だ。記録も撮られ、位置もバレれば下手に動けなくなる。
これで我慢していた2年間が幕を閉じた。
婚姻式も無事終わり、次は1カ月後の結婚式。