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②−3 祭りと孤児院

 イザベラに挨拶をしたあと…、そのイザベラはニヤニヤしてるし、やっぱり、ああなることを知ってたのか、わざとなのか…、してやられた気分。


 貧困区へ行く前に、親方へ会いに行くことにした。親方は作業に集中しているようで、庭へ案内されるまで、だいぶ待っていた。


1年しか離れてなかったから、親方は親方のまんま。弟弟子が作った剣を見せた。

「そうか、『剣』にしたんだな。それに合わせた重みと長さか……ドノも成長してるじゃねぇか」

剣を返され、いつもの『腕試し』が始まった。ドノが作った剣で木人を相手にする。

体が鈍っている。でも、動きを体が憶えているのか、次第に剣と体がなじんできた。

「さすがにアイツの相手はできねぇな」

「私には無理ですね。剣を選択していない、ナナでさえ、ついて行くのがやっと……でしたから」

「だろうな…」

親方が止めるまで、夢中になっていた。

「お前バカか、適度って言葉を知れ」

やっぱり親方に怒られた。剣を扱う方が私には性に合っていると思う。

親方の打った剣は、ドノ親方にあげたことを伝えた。



 街は、私の知らない賑やかさがあった。どうも、イザベラが王妃即位した記念日になっていた。廃嫡された王子が追放され、人攫いと奴隷の元凶が刑を受けたことで、悩まされていた国民が即位といっしょに記念日を作った。


 人混みで前に進めず、貧困区へは明日にして、今日は祭りを楽しむ。

 昼は、小物や花の屋台から子供が好きそうな綿あめやリンゴ飴の屋台もある。噴水周辺で踊ったり、道のあちこちで音楽を奏で、手品やジャグリングなどをしている。


 夜は、酒や食べ物の屋台が中心に賑わう。購入した食事を食べる専用のテーブルも設置してあった。私はジュースとフランクフルト、ナシゴレン風炒飯。他にもいろいろあったけど、目移りしてしまう。


「よお!ねぇちゃん〜」

こんなお祭りで、必ずいる、浮かれた酒飲みオジサンたち。ただいま、絡まれました。

オジサンたちの息は酒臭い。

「無視するなよぉ」

がっちり、肩を掴まれた。無視はしてはないんだけど、声が出ないだけで……

私の愛想笑いも、断る素振りも通じない。

困るな〜今ルディは席を離れてるし……

「こっちに来なよ」

手首を掴まれ、ひっぱられる。いきなりだったので、

足元がふらついて、倒れそうになった。

「すみません、私の連れですので」

支えてくれたのは、ルディだ。息が荒くなっているのは、走ってきてくれたのかな。

「な〜んだ、彼氏いんじゃねぇか」

「いい男だねー」

ルディに連れられて、その場から離れた。よくよく見ると、汗が見える。人混みが少なくなったところで、ルディの裾をひっぱり、足を止めてハンカチで汗を拭いてあげる。

口パクで『ありがとう』と伝える。

私の髪の一束にルディの唇がふれる。

ルディは何も言わないけど、目が語ってる。


 祭りのせいで、宿がみつからなかった。王城には人混みと警備で、人の行き来を制限していた。

 宿が見つからなさすぎて、親方に甘えることにした。


 親方から、祭りで宿はないと言われていた。見つからなかったら、うちに来いと言われた。


予想以上の混み具合で、探すことを諦めた。親方の家にお邪魔した。

「1部屋しかないからな」

王城のように、部屋にソファはなく、ベッドがあるのみ。それでも、泊まれることに感謝しかない。


宿を探すために、街中を歩き回ったので、へとへとになってしまった。

ベッドに横になったとたん、体が布団に沈み込んでいった。



また、王城で泊まったときと同じ感じがした。温かくやわらかいモノがふれる。


朝になっていて、あの時と同じように私の背中から抱きしめられていた。

また、いっしょに寝ていたんだ…

まだ眠気が残っていて、ぼんやりしてる。


この後、親方にお礼を言って、お菓子を買って、孤児院へ……


頭に温かく柔らかいモノがふれる。

ん?

今度は、首……

ビックリして振り返り、ルディも私が突然振り返ったことに驚いて、なんか顔が赤い?

「起きてた?」

心臓がバクバクしてる。怖ず怖ずと頷く。


もしかして、昨日も?あ……目が覚める前にも?

ルディもバツが悪そうにしていたが、私の手を取り、口を近づける。

いつだったか、手の甲にキスをしたことがあった。また、手の甲に……

ルディは、掌の下……手首にキスをした。

「ㇶぁ…」

手首だけじゃなく、手の甲にも、キスを落とす。

ルディがキスをするたび、私を見つめる。

手をがっちり掴んでいて、逃げれない。

「ルデ…」

恥ずかしくて、ルディの手から逃れたくて、離れようとする私を胸に埋めるくらい抱きしめ、指で首筋を撫でた。

「ひぁ!……くすぐったぃ」

力強く抱きしめるルディの胸が小刻みに震えている。

「ル…ディ…苦し…」

私の顔は、ルディの胸で塞がれて息がしづらい。ギブアップとルディの腕を叩いた。

「ごめん…うれしくて……」

うれしい?私といっしょに寝たことが?手にキスしたことが?

「気づかない?」

……?なに……。ルディがいたずらっぽく笑う。

「ひゃぁ!ルディやめて」

耳に息を吹きかけられて、思わず声が出た。

……あれ?

ルディは笑っている。

「普通に教えてくれたっていいのに」

「本当に気付いてないなんて、思わなくて」

ルディの腕から素早く逃れ、部屋から出る。親方に泊まらせてくれたお礼と、声がでるようになったことを伝えた。いつもはムスッとした表情の親方も喜んだ。



 親方の家から出発し、昨日の賑わいはどこへやら、街は静まり返っている。いつものお菓子のお店で、2袋分購入し、私の育った貧困区へ向かった。

「ね?いつまで、そうしてるの?」

散々私で遊んだルディを無視しつづけている。

私だって、したくないけど、なんか収まりがつかなくて、こうするしかなかった。


 私の育った〝貧困区〟は1年前とそんなに変わっていなかった。懐かしい感じはそのままで、少しみんなに余裕ができたような表情が見える。

 私に気づいた子は、1年前にもいた子だ。他の子にも声をかけて、私に集まってきた。

「おかえり!」

「ただいま!みんな元気?」

お菓子袋を1つ渡すと、孤児院へ走っていった。

もう1袋を貧困区のみんなに配る。手足が不自由な人できる仕事に就くことができ、生活の不安が少し和らいだと言っていた。

少しずつ、国の政策が進んでいた。


 最後は、私の剣の師匠、グォーブ。元騎士団長で、隣国問わず数々の異名を持っている。足の負傷で、騎士団を引退、この貧困区にやっていた。足の怪我は、治癒師は他の団員の治療にあたっていた為に治癒が間に合わなかった。

「そうか、『剣』を選んだか……なら俺と手合わせしろ」

怪我の為に杖をついているが、それでも強い。杖さえも武器にできる。

手合わせは、初めて杖を手放し剣を持った。重心は多少傾いてはいるが、片足だけでも踏ん張り、私の剣を往なす。

万全の状態でなくとも、十分戦えて、私より強い。師匠には勝てそうに無いことを実感した。

「そうだ。ここは〝貧困〟区ではなくなったぞ」

働くこともできるようになっているし、貧困ではなくなったってこと?

「いいや。王妃様がここの人達に好きな名前をつけていいと言われたんだが……みんなが」

『名の無い区』

「ーに、したんだよ。誰かさんが『名、無し』なんて言ったからだろ」

名のない者も、名のある者も行き着くところ。


井戸で汗を洗う。

「ルディに聞いてほしいことがある」

私が捨て子だったこと。ここで起きたこと。私には前世の記憶があること。区域の外は真っ黒だったこと。でもそれは母さんの結界のせいだったこと。


私の秘密にしていたこと、全部。ここで、何があったのか、全部。

「それでも、私のこと好きと言える?」

「ああ……その全部がナナだから、1つ欠けていても、ナナには変わりない」

真剣でまっすぐな目に、私はあの時の答えを出した。

「私は……」


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