③−3 東の大陸
繊維の国から、定期便の船に乗り、東の大陸へ行く。船の動力源は魔力石。この船そのものが、魔道具になっている。
どんなところだろ?やっぱり日本風なのかな?
船の乗降場には、着物を来た人たちが【ようこそ!】の札を持って来た人を歓迎している。
札を持っている人の横には着ぐるみの動物?が手を振りながらジャンプしている。
久しぶりだ、あんなゆるキャラ。
船着場らしく、近くには海鮮が食べれる食堂があった。どこまで、日本風にしているんだ?
海鮮のお店に、父さんは躊躇なく入っていく。生魚は〜うんぬんかんぬん〜とか、言わないんだな。
「毎回、あのお店に寄るのよ」
飲む仕草をする。
ああ!お酒かぁ…
父さんについて入るとさっそく、酒を注文していた。徳利とお猪口……。熱燗か。ということは…匂いからして日本酒。
「ナナにはダメだ」
わかってますよ。前世は日本酒よりビールか酎ハイだったし。
後で運ばれた、刺し身を食べつつ熱燗をちびり、飲んでいく。
店内の雰囲気が、居酒屋の感じがする。1枚1枚、木の板に書かれたメニューが壁に、少し高めの位置に掛けている。メニューは一品ずつ。くし焼きに、枝豆、ししゃも、だし巻き卵……飲兵衛さんのための料理だ。
声が出ないので、母さんにメニューを指差して頼んでもらう。
おにぎり2個と海鮮汁。おにぎりの中身は、魚のほぐし身、もう一つは梅干し。ひと口食べて、海鮮汁をすする。
「…、ぁあ〜」
美味しい。海鮮汁の出汁が効いてる。
今度は梅干し。
「…ㇲ……ㇵぁぃ」
……?父さんも母さんも、私を見て驚いている。汁を飲めと、指をさす。
「ㇵ…ぁ、ァァァ……ぁ?」
……?…声が…出てた?………、出たの?…………ふっ、
「ふふふ……ㇵㇵ…」
東の大陸で、しかも居酒屋で…声が出るようになるなんて……なに?それ…全然感動的じゃないし。
おかしい…
「ははは…」
久々に笑って、お腹が痛い。
2人は涙が浮かんでたけど、私は笑い涙を浮かべている。父さんはお猪口で、母さんと私はお茶で乾杯する。
船着場の居酒屋で、もっと料理を楽しんだあとは、街ブラ。木の家屋に、井戸、姫路城ぽいお城。街の人は着物が多いが、洋服の人もいる。ちょんまげは、ない。文明開化か?
温泉もあって、のびのびできた。また行きたい場所の1つになった。
また、西の大陸へ戻るため、船着場で待っていると
「この旅の順路は、殿下が考えてくれたものなんだ」
そう聞いて、腑に落ちた感じがした。
私がフルーツティーを淹れていて、紅茶が好きだとわかって、あの2カ国に。母さんの国を経由し、最終地に東の大陸に行く順路を決めてくれた。
「ナナのことを、こんなに想ってくれてステキな方ね」
「うん」
「でもね、無理に殿下の元に戻らなくてもいいのよ?自分の心は、誰のものでもない、自分のもの。だから……ナナが決めなさい」
私はどうしたらいいんだろ……。
この旅をルディは私のことを想って考えてくれた。
私は自分の事ばかりで、ルディのことを考えられていなかった。
でも旅をしている間、ルディの色を目で追いかけていた。国々で見たもの、体験したことをルディに話したらどんな顔をして反応するのか、ずっと考えていた。
私にとって、ルディは……
今度こそ、ルディと向き合い、ちゃんと言わないと。ありがとう、と。そして答えを。
日本料を堪能して、声が出るようになって、温泉でくつろいで…
声が出た時のことを思い浮かべると、また笑ってしまう。
潮風が心地いい。そういえば、海を見たのも初めてだったな。海水浴とかあるのかな?
もうすぐ、繊維の国の船着場へ到着直前に、気づいた。船着場にルディがいることに。
思い切り手を振った。ルディも振り返す。
船が到着して、急いでルディの元へ走っていく。一歩手前で立ち止まり、口を見てと指をさす。
「……ル…ディ」
私の、久しぶりの声に驚いた顔をしている。
「ルディと父さんと母さんのおかげ……ありがとう」
私のことを想って、この旅のルートを考えてくれた。いろんな国のことを知ることができた。
「声がでるようになって……よかった……ホントに……よかった」
顔がよく見えないけど、泣いている気がした。旅に出てから半年。
「私をこんなに大切に想ってくれて……半年間、待ってくれて、ありがとう」
ルディの手に私が作ったルビーの魔力石を渡した。
今まで待ってくれていた、返事を今ここで……
「ルディ、あのね」