*ナナ専用のメイド服*
あれ以来、時々専属メイドのお仕事をしている。やっぱり、スカートが慣れず、妃陛下にズボンの許可を聞いたが『ダメ』だった。
服を仕立ててくれる服屋を尋ねたが、王城に仕立て屋を呼ぶことになった。
仕立て屋は、おばさまみたいな出で立ちのデザイナーとお針子数名。
おばさまに、メイド服のスカート部分をズボン仕様にしてほしいと、私の描いた図解を見せる。
ズボンなのだが、裾はスカートみたいに広がってる感じで、ぱっとした見た目はスカートに見える…ガウチョパンツというんだっけ?
なぜか、この輪に妃陛下が混ざっている。私のデザインが気になるようだ。
「えースボンにしたら、武器を隠せれないんじゃない?」
え?なぜに?
あれかな〜太ももにナイフホルダーをつけてるやつ?
漫画みたいな、やつかな?
「それ、必要ですか?」
「かっこいいじゃない〜」
「王城には騎士もいますから、必要ないですよ」
ちょっと拗ねてる妃陛下を無視して話を進める。
「ズボンになるので、上は別々にして…エプロンはこのままでも…」
妃陛下はまだ拗ねてた。そんなに憧れなのか?
「妃陛下…」
「お義母さまよ」
「………、お義母さま、なにも隠すのはナイフだけじゃなくていいんですよ」
「ーー例えば、このヘッドドレス。この縫い目のところに太めの針を仕込んでおくとか。一見普通に見える髪飾りが武器になるとか、色々です」
確か、動画で……
「指輪のサイドのボタンを押すと針が出て刺せる、というのもあるかと…」
「それ!いいわね!さっそく作ってもらいましょ!」
目を輝かせ、意気込んでいる。
何か合ったときの自衛としてあってもいいのか……な?
「ナナ、どこから、そんな発想ができるの?」
前世てす。前世の動画やネットで見ました。
話を戻してもいいだろうか…。
「どうでしょか」
デザイン画を見ていたおばさまは、私に視線を移す。
「いいですね!このデザイン!」
思いがけない言葉に嬉しくなった。女性はスカートが基本だし、ズボンなんて男性か騎士が穿くものとなっている。見た目スカートでも、実際はズボンなんて断られると思ってた。
「ナナシ様のを仕立てたあと、街で売り出してもよろしいですか?」
「え?需要ありますか?」
「あまり公にできない、令嬢や市民の皆様がいると思うのです。『スカートは穿いてみたいけど、でもスボンがいい…』」
なんか、小芝居がかってないか?
「そんなとき!ズボンとスカートが一体になった、この服があれば!解決出来るのです」
「お、おお…」
小さく拍手をしてみせた。勢いがすごい。
「妃陛下の後ろ盾がある、ナナシ様ご考案と宣伝すれば売れます!間違いなく!」
「そ、そんな宣で…」
妃陛下が私を遮った。
「いいわね。宣伝でいきましょ」
おばさまと通じ合った妃陛下は強く握手をした。
……わたしの意見は?なし…ですか?
その後は、私の採寸をして、色を決めた。
できあがったメイド服のズボンは、希望どおり。デザインが凝っていて、両サイドに縦プリーツが施されている。
ただ……他は……
他のメイドと同じ黒…。ではなく、ダークブラウン。エプロンは白に私の髪色のラインが入っている。ヘッドドレスは白にブラウンのリボンがひとつつけることで、妃陛下は納得した。
ヘッドドレスを触ると、何か硬い物がある。
「ふふ、仕込んでみました。針」
へ?それ私に必要ですか?なんの危険と対峙しないといけないんですか?
全部着たところで、腕を広げ、くるっと回り背中部分も見せた。
「どうですか?」
「似合う!そのサイドのヒダヒダがいいわね。他のメイドにも取り入れようかしら」
少し歩いてみる。うん、動きやすい。
妃陛下は扉の外に声をかけた。
入ってきたのは、ルディと父さんと……、陛下!?
「すごく似合うよ」
陛下ありがとうございます。
「こんなに立派になって!」
服の感想ではないよね……父さん。
……ルディ?
「母上!このまま、ナナをお借りしてもいいですか!」
妃陛下の返事もまたず、私を引っ張っていった。
連れて行かれた先は、母さんのところ。
「あら、ステキね。その色は殿下の色ね」
妃陛下の言う通りに色を決めたが、気づいたときにはできあがった後で、ルディの色を身に着けるなんて恥ずかしくなった。
「なんで、メイド服なの?」
「アルバイトでメイドの仕事をしてて…」
部屋から出た後は、ルディの執務室に連れて行かれた。
「紅茶、淹れてくれる?ナナの分もだよ」
「普通でいいの?」
執務室に置いてある、茶葉の入っている缶を手にする。蓋を開けると華やかな香りがする。セイロンかな。
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紅茶を淹れている様子を、執務机から眺める。服の色合いからデザインまで、ナナに似合っている。私の色を纏っているナナは、私のものだと主張しているようだ。実に気分がよい。
「どちらで、飲みますか?」
執務机の前にある向かい合わせのソファに指を指す。ナナは私が座るのを待っている。そんなナナを無理やり座らせ、私がお茶を置いた。自分の分のお茶を持って、ナナの隣に座る。
「あ…え?…え?」
「こうやって、ナナと飲みたかったんだ」
私から顔を背けたが、耳が赤いことに気づいた。
本当は、抱きしめて頬や額に口づけを落としたい。欲を言えば、唇を奪いたい。
しかし、ナナから返事を貰っていない。自信が持てるまで、どれくらいかかるだろう。それまで、私は我慢できるだろうか。