事態は動き出す2
足音が複数。草を踏む音、砂利の音がする。誰かに取り囲まれている?窓からも、人影が見えた。武器を持っている男達。
「人数が多いな…」
ルディの魔法があっても、私は剣を持ってないから戦えない。マズイ状況に緊張感が漂う。
王都郊外の木々が生い茂っているところまで、馬車で連れて行かれた。私には、ここがどこなのかサッパリわからない。ただわかるのは、馬車の周囲をたくさんの男?が取り囲んで、危機的状況だということ。
武器はない。魔法はルディだけ、私の魔法は威力が弱い。あの人数で太刀打ちできるか、どうか……。
ひとつ…使えそうなのが、あるにはあるが……。
取り囲んでいる男の中に、フードで顔の見えにくい人がいる。他の男に比べ細身で雰囲気も何かが違う。あの人がリーダーか、何かだろうか。
馬車の扉をガタガタとこじ開けようとしている。内側に鍵をかけている。それでも、力任せに開けようとしたり、扉を叩き壊そうとしているので、時間の問題……。
御者もグルなら、助けは期待できない。王城に戻らない私たちに気づいたとしても、どこにいるかなんて分からない。自分たちで、どうにかするしかない。
馬車の扉が壊れ、男がこちらを見た。
馬車の周りを囲むように、風と土が舞い上がり、男達は体勢が崩れる。扉からのぞいた男は周りの様子に驚いている。
その隙をつき、私が服に仕込んでいた針で男の手を刺し体を蹴り飛ばし、持っていた武器を奪う。
これで武器を確保できた。あとは倒すのみ!
ルディの補助魔法と攻撃魔法。私も遠慮なく魔法を使い、男を薙ぎ払う。騎士団と父さんとの訓練が役にたった。
前方の男どもは、大方倒した。反対側に振り返る……と、ルディの後方……の離れた木の上から、狙う何かがいる。
それが何かわかった時には遅かった。弓に矢……
矢がルディに向かって、一直線に飛んで来ている。
「ルディ!」
風魔法を使ったが、軌道が変えられそうにない。
ルディを守れない。
ルディの体に矢が突き刺さるイメージをしてしまう。
……やだ…やだよ…
ルディの背後に土の壁がそびえ立ち、壁に矢が弾かれた。
「殿下!ナナシ!」
駆けつけてくれたのは、メイズとシーブル。グレアとロイもいる。
「よかっ…た…」
ルディが無事だったこと、助けが来たことに安心して力が抜けた。
ルディが支えてくれた。
「ごめん…守れなくて」
今まで想像しかできなかった、不安な気持ちが本当に分かってしまった。
残りの男たちを、4人で倒していく。メイズが3人の補助に回る。いきなり3人の補助魔法はやはり難しそうで、ルディも加わった。
私はルディとメイズの背後を守る。
みんなが戦っている中、フードの人が逃げていくのが見え、追いかけた。自分だけ戦わず逃げるのか。
逃げるフードの人は、フラフラしている。走っているのにやけに遅い。すぐに追いつき、地面に組み伏せた。
フードをめくると、頬が痩せこけ、髪もぱさついている……あの、ツインテの娘。
「え?…なん…で?」
組み伏せた体も痩せ、肌がところどころ澄んでいる。
『呪いをかけた者は必ず、何かしらの影響を受けている』
……もしかして、この娘が?
「やはり、君か」
男たちを片付けて、ルディがそばに来た。他の4人は、倒した人達を縛り上げている。
「どういうこと?」
「孤児院で子供が拾った石だよ」
確か、返せと子供に迫っていた人がいた。私たちに気づくと逃げた。
「あの石に魔力を纏っていた。それを追っていたら…、」
この娘にたどり着いたと…、
じゃ、あの石は?
「あの石は呪いの核だよ。今ごろ正しく無効化されているはずだ」
この娘が、私に呪いをかけ、母さんを苦しめた。
「なんで、こんなこと…」
呪いの反動がこんな風になってしまうなんて…。もしかして、私たちをここまで連れてきたのも?ルディが危うくなったのも?……そんな…
学園祭のあと会ったけど、こんな感じではなかったはず。
「お前が!……お前が!この国に来たのが悪いんだ!」
「おかしなことを言うな…私がナナを連れてきたんだ。私の一存だよ」
この娘も縄で縛られ、私は少し離れた。血走った目で私を睨む。正気ではないことはわかる。
「殿下は悪くないのです。あの女が…生まれなければ!生きていなければ!殿下に会うこともなかった!」
ルディに対する言葉は優しくて、私に対する言葉はトゲで刺すような…。その思いで、私を憎み呪いをかけたのか……。私だけに憎悪を向けるならまだしも…
「私の生を侮辱することは……しかたない。でも私の命を生んでくれた、父さんと母さんを侮辱……しないで…」
視界が滲んだ。
「そうだよ!お前を生んだ親もバカだよ!こんなヤツを世に放つなんてなっ!」
やっと会えた父さんと母さんをそんな風に言うなんて……ひどい…
「そんなこと言われるなんて、思わなかったな」
父さんがやってきて、あの娘を気絶させた。
「ナナ、戯言を信じるな」
これで、呪いの元凶は見つかって、今呪いを解いている。
『この国に来たのが悪いんだ!』『生まれなければ!』『お前を生んだ親もバカだよ!』
一安心なのに………、………