事態は動き出す
年を明けて、授業が始まった。あっちの国は雪は降らなかったが、この国では雪が降る。ドカ雪ではなく、地面に薄っすら積もる程度。たくさん積もったら雪だるまでも作りたかったな。
未だ授業は午前のみだが、王城で家庭教師から午後の分の授業を教わる。その後は、騎士団の訓練場で父さんとの訓練を行う。
いつまで、こんな日々が続くのだろ。母さんの呪いも早く解決したい。母さんが元気になったら、いっしょに街へ出かけたいとも思う。
ある日、あちらこちらで、呪いの話題が上がっていた。『学生が誰かに、呪いをかけた』去年にはなかった話題だ。そんな話をしていた生徒に詳しく聞こうとしたが、『誰かが言っていた』としか言わない。
意図的に噂を流してしるのか?あるいは本当に?そうだとしたら、呪いをかけた当事者が1番不利になるのでは?
噂の出処を探してみたが、全くわからなかった。
「おい、聞いたか?噂」
ロイも気になるようで、尋ねて来たが、私にもわからないと伝えた。
「噂の出どころを探してるんだけど…、」
出どころがわかれば、呪いのことが解決するかもしれないと思っている。
王城に帰った時にルディに聞いてみたが、わからないと言われた。それと『下手に動かないように』とも。
焦ってはイケナイとはわかっているけど、それでも今まで進展がなかったことが、噂として流れている。引き続き、噂の出処を探し、校舎中を歩き回っていた。
噂が出始めて2週間すぎたころ、出どころを探し歩いていると、誰かがついてきている気配がした。立ち止まって後ろを振り返るが、人も人影も見当たらなかった。
また別の日も。同じ気配がする。
ルディから注意されていたにも関わらず、動いていたため、こってり怒られた。いつもの口調で。いつもの口調が怖い。怒鳴るような怒られ方の方が、どれくらい怒っているのかわかりやすいが、静かにいつもの口調だと、どれくらい怒っているかがわかりづらく、想像がつかないから、怖かった…。
『言うこと聞かないなら、登校させないよ?』
なんて言うものだから、平謝りした。2回も危ない目に遭っているのだから、怒るのもムリはない。
それから、また1週間たったころ、1人でいたわけでもないのに、校舎を歩き回っていたときの気配と視線を感じた。背筋が凍る。次の日にも、また次の日にも。
目か……。入学してすぐの時には、周りの視線が痛かった。でも1番に思い出すのは、夕陽を背に、魔法を打ってたあの人の目。憎悪に満ちた目。
思い出しただけで、手や足が震える。思い出さないようにしていたけど、意識すると、あの時の光景が思い起こされる。憎悪の目と一緒に痛みを思い出してしまう。
魔法で攻撃され、肩を負傷した。夕日を背にしたあの人の眼光、憎悪の目。痛みに気を失った私を匿ったのは、ルディ。数週間治癒にかかって、私の右肩にはその時の傷が残っている。
眼光と肩の痛み。
こんなんじゃ、克服は難しそう…。
「どうしたのです?」
馬車に向かわないといけなかったのを忘れてて、考えにふけっていた。
「あ…えっと……」
「馬車に来ないので迎えに来ました。行きましょう」
私の手を引き歩き出した。また、気配と視線。さっきより、視線が鋭く感じる。
怖くなり、ルディを握っている手に力が入ってしまった。気配と視線から逃げるために、私とルディは足早になる。でも振り切れず、ずっとついてきている。追いかけている……。
「このまま、振り切りましょう」
あの気配と視線をルディも感じているみたいだった。気配はするのに足音もしない。一定の距離でついてきているみたいだ。いつ、魔法で攻撃されるのか…恐ろしかった。
馬車に近づいたとき、気配が消えた。
急いで馬車に乗り込み、お互いに息を調える。寒いけど、走ったので体が熱くなっていた。
「手が震えてたのは、あの視線ですか?」
「はい……。あの国でのこと…思い出して……いつ攻撃されるのか……怖かった……」
向かいに座っていたルディが、私の横へ座り抱き寄せてくれた。
ルディの胸へ抱き寄せられたまま、ルディの温もりで少し安心した。
あの時、気を失う直前に、ルディの声と温もりと匂いで、身を委ねていいと安心した。
外の景色がいつもと違うことに気づいた。
「…、道が違う?」
「え?」
ルディが御者に合図を送ったが止まることはなく、進んでいく。私も窓をみたが、王城への道とも、街の道とも違う。だんだん建物も少なくなっていく。馬車の速度も速い。
馬車に乗り込むときには、王家の紋章の馬車だった。違う道を走っているのは、御者が入れ替わった?
「郊外へ行ってる」
そうルディは言っているが、私にはどこなのか、さっぱりわからない。
突然、馬車が止まった。外を見ても知らない場所。木は生い茂っている。どこかの森なのか?
馬の走っていく蹄の音がした。私たちを逃さないようにしたのか…。用意周到。