*新年マーケット*
以前、学園帰りで立ち寄った、商店街。三が日が過ぎた後、商店街では新年のマーケットが行われる。新年にちなんだものや、くじ引きで割引券がもらえたり、楽しそう。
再び、ルディとやってきた。お店もいいけど、今日は屋台が多く出店しているし、お客さんがたくさん来てる。
「賑やかなだぁ」
今日は一段と冷える。ハラハラと雪が降っているから。
アーケードで商店街の中までは、雪は入ってこないが、冷気は遠慮なく入ってくる。それでも、お客さんの熱気で冷気は負けている。
着いたばかりで、身体が冷え切っている。アーケード入り口で、ホットハニーミルクが売られていた。
「2つ」
ルディが支払う前に、私が支払った。ハニーミルクが入ったコップをルディに渡す。コップ越しに伝わる熱が、悴かんだ手を温めた。
「私が払おうと思ったのに」
短期就労をして、しっかりと破格のお給金をいただいているので、今はお金の心配はない。
「まだ入り口だよ。これからたくさん買うかも…なので、その時は頼りにしてる」
手と身体の中からも温まってから、マーケット散策を再開する。
新年だからなのか、色合いがカラフルな置物もある。あれって…なんか見たことがあるな……
「招き猫?」
陶器でできて、猫の形をしている。猫の形ぽくして後で色付けしている感じ。
「猫の置物だよ?お嬢ちゃん、『招き猫』ってなんだい?」
そうか、招き猫はないのか…、余計なことは言わない方がいいかな。
「いえ……」
「私にも教えてほしいな」
このままやり過ごそうとしてたのに、ルディ…蒸し返さないで。……しかたない…
「猫の右か左手どちらかで招くと、人やお金が舞い込んで……ようは、商売繁盛の御利益があるんですよ?」
「なんで疑問形?」
「……なるほどな!そりゃいいこと聞いた!」
真剣に聞いてくれていた、おじさんがすでに売られている絵を拭き取った。
「さっそく描き直して、『商売繁盛の御利益がある!』って売り出すぞ!」
「描けたら1つ買うよ」
「ねぇ…ルディ…商売繁盛だから、ルディには関係ないんじゃ…」
こそっと耳打ちをする。
「関係あるよ。本当に商売繁盛すれば、国が潤うからね。それと…」
ルディも私に耳打ちする。
「ナナが考案したものを1番に買いたいからね」
店主にも聞こえる声で言った。
……私の考案ではないんだけどな……前世では有名だし。
「お嬢ちゃん、愛されてるね〜。はい、もう一つおまけ」
赤がメインの招き猫と、栗色メインの招き猫。愛着が湧きそうな、カワイイ顔になっている。おじさん、絵うまいな。
おじさんと私が互いにお礼を言った後、またマーケット散策を始めた。ピエロぽい人が、お客さんを笑わせたり、売り文句が飛び交う。
福袋のようなものもあった。中身の見えない箱に金額以上の商品が入っているというもの。………まんまだ。焼き菓子のお店も福袋をしていたので、1袋分を購入した。どんなお菓子が入っているのか楽しみだ。
あと、シフォンケーキも購入する。プレーンとレモンピールの入っているシフォンケーキ。父さんと母さんに食べてもらおう。
どこからか聞いた音楽が聞こえてきた。音色も知っている。音の方へ向うと、舞台の上で『琴』と『尺八』で奏でている〝春の海〟。この音色、心に染み付いた『日本』が揺さぶられる。
「ナナ!先に行かないでって……」
ルディの声が聞こえた気がするけど、琴の音色しか耳に入ってこないかった。
演奏後に拍手をしていると、ルディの声が聞こえた。
「ナナ?」
その声で、ようやく気がついた。私が涙を流していたことを。それを見ていたルディがハンカチを差し出してくれた。
「すごくキレイな音色で、感動しちゃった」
「東の大陸の楽器だそうだよ」
東か……こんな楽器があるのだから、もしかしたら日本みたいな感じかな?着物とかもあるのかな?
「いつか、行ってみよう」
「うん」
新年に日本を感じることができて、こんなに幸せに感じることはない。この国にこれたことも嬉しいが、私の知らない国がたくさんある。知らない国を見に行けたらいいと思っている。