*年越しと年明け*
何となく、年末年始は過ごしていたけど、今回は父さんと母さんもいる。日本のような〝正月〟はないけど、縁起物を食べるのは、この世界でも同じのようで、縁起が良いとされるお肉や野菜を食べたりするのだとか…。
今年最後の夕食は陛下や妃陛下と父さん母さんもいっしょに食べることになった。気を使うからといっしょに食事は取らなかったのだが、年越しと年明けはおめでたいことだからと、陛下のお願いでもある。
母さんは呪いのせいで体調は悪い。食事のお願いを断ろうとしていた。でも私に気を使ってか食事に参加した。父さんと私が支えながら食事の席へ誘導する。
席に着くと、飲み物が運ばれた。私と母さんと王女はジュース。みんなはワイン。
「今年はいろいろあったが…」
本当にいろいろあった。この国にまでの道中もそうだし、来てからのあれやこれや……。
魔法の第2の師匠が母さんで、狩猟を教えてくれたのが父さんで。
「ナナが来てくれたのことも、そうだが。ナナのご両親にも会えたことが喜ばしい……来年も良き年になるように」
それぞれ持っているグラスを掲げ、乾杯をし飲み物を口にする。その年の最後に飲むワインは特別なものと決まっているそうだ。
料理が運ばれ、舌つづみを打ちながら、互いの家族の話で盛り上がった。
陛下と妃陛下のなれそめ、父さんと母さんの出会い。お酒も入り、嫁の自慢話になってく。
私も卒業したら、お酒飲めるかな…。前世は歓迎とか飲み会に出ても、お酒を味わう雰囲気ではなかったしな。
自慢話に花が咲く人達は置き去りにして、母さんを部屋に送った。ルディも手伝ってくれた。
「殿下、この娘をお願いしますね」
「ええ、もちろんです。お義母さん」
ん?……あれ、聞き間違いかな?…おかあさんって聞こえたような……
「こんな娘は、殿下じゃないと幸せにできないわ」
「私の名にかけて、幸せにします。いえ、私の幸せもナナにしかできません。お義母さん」
聞き間違いじゃなかった……しかもわざと私に聞こえるように言ってるな。
私の返事待つ前に、 周囲を固めてる。策士かっ……
まだ固めてない『義父さんと呼ぶな』と言っていた父さんだけだ。
母さんが横になったあと、ルディは部屋を出て行った。
「殿下でないと幸せにできない…、というのは本当よ」
この部屋へ行くまでの、あの会話。
「あの塀の門で合ったとき、あの時すでにたくさんのものを背負っていたのが……わかったわ。塀の外へ行こうとしていたのも、背負っていたものの為でしょ?私たちは少しでも助けたかっから…あの時…勇気を出して声をかけたの」
どうしよう…と迷っていたときに声をかけてくれた。母さん……あれが、どれほど勇気がいったことか。私には計り知れない。
「あなたの過去を知っても、それだけでは殿下は離れたりしない。現にずっとあなたの側にい続けてる」
「うん……」
母さんは私の頬を撫でた。
きっと母さんは私のルディへの気持ちをわかったのかもしれない。
「私は…休むわね…」
「ん…おやすみなさい」
母さんの部屋をあとにした。
自分の部屋に着いて、今年のことを振り返っていた。この国に来たこと、学園に入り『剣』を選んだこと。毒や呪い。ルディに……
ノックのあと、ルディの声が聞こえた。
「少しいいかな」
扉を少し開けると、ルディがブランケットを持って立っていた。赤にチェック模様のブランケット。
「ナナもブランケットを持っておいで」
意味もわからず、ブランケットを持ってルディについて行く。そういえば、ルディがくれたブランケットはブラウンのチェック模様。
ルディに案内されたのは、廊下から入れるベランダ。ブランケットを羽織り、ベランダからの景色を見る。……と、言っても夜。無数の星と、街の灯りが見える。
「ナナ、私の国に来てくれてありがとう」
「ルディに誘われなかったら、いろんな人と父さんと母さんにも会えなかった………でも、ルディに心配ばかりかけて、ごめんね……そして…ありがとう」
星の灯りで、ルディの表情が見える。優しい目。その瞳に私を映す。そんなルディの………
「もうすぐだよ」
「え?」
一筋の光が、街から上へあがり……大輪の花火が開き、大きい音が体に響いた。
「新年とともに、花火を上げるんだ。ナナに見せたかったんだよ」
次々に、色とりどりの花火が上がる。この世界では初めての花火。
「ありがとう!ルディ!」
いつの間にか、どこかのソファで寝ていた。寄り添って、隣でルディも寝ている。
「あらあら、新年早々、仲睦まじいこと」
「いいことじゃないか。仲が悪いよりいいだろ」
陛下に妃陛下!えっと、花火を見てそれから……
「フェルディオの幸せそうな顔、ナナのおかげだね」
私のおかげ……この顔が私が引き出させた、ということ?
「ナナ会うまで、国を背負う事の重圧で、こう…なんていうか……固かったのよ」
「気負うことはないと、言ってたんだがね」
ルディにとって、大きな事柄。私と違う背負うものが、私よりもっと大きい。
「手紙でナナのことを綴っていたときは、ただ興味を持っただけなのだろうと思っていたよ」
「ナナを国に連れて行くから学園の手続きをしてくれと言われたときは、騙されているのではと疑ったもの」
2人は恋愛で結ばれたと聞いている。その息子であるルディにも恋愛をしてほしいと望み、婚約という制度を辞めた。
「ナナに会ったときに、本気だとわかったしね。あとはナナ次第だ」
「そうよ。あまり考えすぎないようにね」
じゃあね…、と2人は去っていく。
「あ、そうだ。ナナの父親が『結婚を許す』そうだよ」
へ?……
………はあぁぁ!!
砦が陥落した…。もしかして、あの酔った勢いで言ってしまったとか?……ありえるかも。
「ナナ……」
「……おはよ」
ルディが起きた時には、頭を抱えていた。
『あまり、考えすぎないでね』
周りのことは一旦考えるのはやめて、いや考えるのは辞めよう。どうしようもないのだから……あとは私の気持ちだけ。
寄り添うような体勢だったから、ルディは見上げ、私が見下ろす形になった。
上目遣いのルディはかわいいな。
いつもは逆の立ち位置だったから、今は私が撫でたくなって…やってしまった。
「あ……、し、新年おめでとう。今年もよろしくね」
姿勢を直し、私と向き合う。座っていると、私より頭ひとつ分くらい背が高いのか……
「…今年だけじゃなくて…… ……よろしくね」
よく、聞き取れなかった。