*母と父の過去*
こいつは、特殊な能力の持ち主で、人の怪我から病気、呪いまで自分の体に移すことができる。その能力のせいで、どこかの国の王族から狙われるようになって、捕まえようとする追手から逃げていた。呪いまで移せる奴なんて、利用価値がありすぎるからな。囲おうとしてたんだろ。
俺と出会ったのは、こいつが身を隠し逃げている時だったな。
俺が立っていた路地裏入り口に、素早く入り、俺に声をかけたんだ。
「隠れさせて」
そのあと、こいつが来た方向から、ゴロツキっぽい男達が走ってきた。すぐに訳ありとわかった。
「もう、行ったぜ」
そっと出てきたのは、赤髪が目を引く女。その髪をフードで隠して立ち去る後を、俺はついていってしまった。なんで、そうしたかはわからない。体が勝手に動いたとでも言えばいいのか…。
最初は、拒まれたさ。会ったばかりの、見知らぬ男だからな。男達に追われていたのもあるし、警戒をしてたんだろ。
女は魔法が使えた。俺が剣だから、パートナーを申し込んだ。やっぱり断られたよ。
それでも、旅する女の後をついていくうちに、事情を話してくれるようになった。
どこかの国の王族につかまり、その能力を使わされた。王が病気になれば、身体に取り込み、誰かが呪いにかけられれば、身体に移す。痛いだろうが、苦しいだろうが関係なく。扱いは奴隷のようだったと、言っていた。隙をついて逃げてきたと言っていた。その国の奴らが、捕まえようと追っ手を差し向けている。
偉い奴らは身勝手だ。人を人とも思わない扱いに俺も反吐が出る。
女を守るために、旅についていった。断られても、それでもついていった。追っ手をかわしながら、その国からもっと遠くへ離れるために。
その時には、惚れていたんだと思う。同情じゃない、一人の女として。
この目の傷は、剣の腕がたつ追っ手だった。交わしたつもりだったが、目を切られた。追っ手はその後の俺の一撃で、倒れた。
女は治癒をしてくれたが、切られた目の視力は戻らなかった。
「私のせいで!」
能力を使おうとしたのを、俺は止めた。女を守れたことが誇らしかったんだ。この目はその証だ。
それから、俺に対する女の態度が変わった。
いくつかの国を渡り歩き、あの国に入るころ、女が妊娠したことがわかった。王都に近づくごとに、腹が大きくなっていき、「俺が父親か」なんて感慨深くなったよ。
王都で出産し、産後はゆっくりするつもりだった。それができなかったのは、追っ手のせいだ。この王都にも入り込んでいた。倒したが、時間の問題かもしれない。
……こいつは、赤子の心配をした。
「私を捕まえるために、この子を囮にされるかもしれない」
相談のすえ、貧困区に置き、赤子を守るための結界を貧困区に施した。結界をしておけば、悪しき者は入れない。
俺達は赤子の成長をしばらく見守るため、平民区で狩猟専門として暮らした。こいつは髪を隠し、平民に紛れていた。
貧困区に元騎士団長が来て、あの毒薬事件で平民区の人たちと交流ができ、あの子の味方が増えたのを確認して、貧困区だけの結界を解除し、平民区全体に結界を張り直した。
あの毒薬事件の貴族は俺たちが調べて、それなりの報いを受けてもらった。
結界も万能ではない。すでに入り込んでいる悪しき者には効かない。でも、あの元騎士団長があの子を守ってくれていた。さらには、あの子自身、剣を習い始めだした。
門の外に行こうとしているところを、偶然を装い声をかけ、いっしょに行くことができた。
狩場や薬草の生えている場所に結界をした。自分が親と言えないことが、こんなに辛いのかと……
いっしょに過ごせる時間が何より、俺にとっても、こいつにとっても、幸せなときだった。
いつまでも、王都には居られなかった。追っ手は尽きることなくやってくる。あの子といっしょにいれば、いずれバレて捕まえられるかもしれない。
王都から離れる前に中層区、貴族区、王城と段階的に結界を施した。年月と共に結界の魔力は尽きて、消えてしまうが、ないよりはマシ。
準備が整い、別れのあいさつをしたあと、ひっそりと王都をでた。
数年たったあと、追っ手はぱったりと来なくなった。風の噂では、こいつをしつこく追っていた国が崩壊したらしい。
追っ手の心配もなくなり、また会いに行こうとあの国へ行ったが、すでに旅立った後だった。
また会えたら、今度こそ、自分達が親なのだと告げようと思っていたんだ。
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「結界が真っ黒に見えたのは魔力的な相性ではないだろうか」
貧困区の外の真っ黒は、結界だったなんて…私はずっと父さんや母さんに守られていた……。捨てられたけど、ずっとそばにいてくれたんだ。
「辛い思いをさせて……すまない…」
母さんも父さんも辛かったはず、でもこれで…やっと言える。
「父さん、母さん…、会いたかった……会えてうれしい!」
涙がこぼれる私を、父さんが抱きしめてくれた。
呪いを取り込んでくれた、母さんは苦しみで顔を歪ませながら、なんとか笑顔をつくっている。
「…母さんは死ぬことはないが、呪いの核を早く探しだすんだ」
「わかった」
「お義父さん」
「貴様に義父さんと呼ぶことを許してない!」
目を見開いて言ってる。
「ごめんね、言ってみたかった…らしいのよ」
私も笑ってしまった。
「気休めかもしれませんが、王城で解呪をさせてください」
「「?」」
「あのこちら…この国の王太子なんです」
驚くのもしかたない。
王太子からの申し出を無下に断ることもできず。王城へ向った。