*短期就労のメイド・ナナ*〜午後〜
そういえば、懐中時計…イザベラからあげると言われ、そのまま持ってきてしまった。なつかしい、王家の紋章が蓋全体に刻まれた懐中時計。
懐中時計を確認し、妃陛下に昼の時間を伝える。昼食の時間。移動する、妃陛下の後をついて行く。
今日の昼食は、妃陛下とルディと王女。陛下は別の用事で一緒には食べれないそうだ。
「ナナもいっしょよ」
「少々よろしいですか?」
ナディーア王女の前に配膳された、サラダにドレッシングをかける。
「初めて見るドレッシングね」
「色がキレイですよね」
妃陛下とルディにもかけた。私も席につき、いっしょにいただく。
「このドレッシング、おいしいです」
「よかったです、姫様」
ドレッシングのかかったサラダをぺろりと食べきった。
「よかったですね、姫様。人参と玉ねぎ食べれましたよ」
「へ?」
「このドレッシングは人参と玉ねぎとりんごでできているのですよ。シェフに頼んで作ってもらいました」
「ええ!わかりませんでした!」
形がわからなくなれば、バレないもんなんだよ。
前世でよく行っていたCafeでお持ち帰りするくらい好きな、人参ドレッシング。家でも作ろうとレシピを調べたりしていた。
「とても、おいしいわ。これなら、人参と玉ねぎが苦手でも食べれるわね」
「お気に召していただいて、よかったです」
楽しく美味しく食べられてよかった。
午後はお客様が来られて、お茶会をする予定。
「ナナ、午前に飲んだフルーツティーをお願いしてもいいかしら」
「かまいませんが……、お菓子に合わせたいので、別のフルーツを使ってもよろしいですか?」
許可を貰い、お茶会の時間を確認する。
「その懐中時計は隣国の紋章ね」
「はい、お世話になった王妃様にいただきました」
「この国のも渡さないとね」
懐中時計が2個もいらないのですが……しかも懐中時計って高価だと聞くし…
「その懐中時計は大事に保管して、この国ではこの国の懐中時計を使いなさい」
「……はい…」
お茶会の場所は、以前お茶会をしたガゼボ。懐中時計を確認し、厨房へ向かった。
秋になったからといって、日差しが眩しい。それでも空が遠くに感じる、秋の空。思いにふける今日このごろ……アルバイト・メイドのナナです。
「お会いできて、光栄ですわ。妃陛下」
「みなさんもお変わりなく、またお会いできてうれしいわ」
みんなが着席したところで、ご依頼のフルーツティーを用意する。甘めのお菓子だったので、すっきりになるように、リンゴとオレンジ、ブドウ数粒のフルーツティー。
ガラスのポットがあったので、それに淹れて運んだ。
「あら、鮮やかね」
「フルーツティーなの。午前に別のフルーツで飲んだのだけど、おいしくて…是非、みなさんに飲んでいただきたいのよ」
カップに注いで、お出しする。
「そのフルーツはどうするのですか」
小さめのガラスの器にフルーツを入れそれぞれに配膳する。
「紅茶の香りがついた、フルーツをデザートとして召し上がってください」
説明した後、後ろに下った。あとは見守るだけ。
このフルーツティーで話が盛り上がっていた。
フルーツティーは、ルディとナディーア王女にもお出しするよう、メイド長にお願いした。
夕食は戻ってきた陛下とともにいただく。なんか私もいっしょってことになってるのね。
「へぇ、このドレッシング。人参と玉ねぎが入っているのか。こんなにおいしくなるなんて…不思議だ」
「あなた、人参苦手ですものね」
ナディーア王女の人参嫌いは陛下ゆずりか…。親子は似るんだな。
「ナナ、フルーツティーありがとう。おいしかったよ」
「わたしも、おいしかった!」
「いいなーお義父さんも飲みたかったなー」
チラリと私を見られても…。お義父さん……って……
「……喜んで、ご用意いたします」
秋は果物が豊富な季節だし、私も飲めるならいろいろ試したいし。紅茶の種類にもこだわりたい。
「あのねぇ…」
ナディーア王女がモジモジしてる……
「お義姉さまと呼んでもいい?」
ぐぉほっ…ごほ…ごほ……
みんな気が早い!でも、こんなにかわいい王女様なら…
「も、もちろんです」
「私のことはナディの呼んでくださいね」
なんか…もうほんとに…逃げられない。
このあと、妃陛下の部屋に行き、アルバイトは終了する。
「はい、今日の分のアルバイト代」
紙には、今日分のアルバイト終了した旨の記載と、アルバイト金額が書かれて……!?
「妃陛下……こ、この金額は……」
「?少なかったかしら?」
「いやいやいや!多すぎます!本来なら、私初めてだし、お試し期間感覚で、していたのに〜」
これに書かれている金額は、護衛騎士の時の1日分の5倍の金額だ。
護衛騎士より高いなんて!
「フルーツティーのこともそうだし、あのドレッシングもよかったわ。それら含めての金額。これから時々アルバイトお願いね」
妃陛下の笑顔で…、断れなかった。