首謀の令嬢と対峙
「ルディ…お願いがあるんだけど」
ルディにお願いをして、地下牢に連れて行ってもらった。
冷え切った分厚い石のレンガが積まれた空間。歩くたびに足音が響く。金属の扉の真ん中に格子が嵌め込まれている。その格子から、あの令嬢の姿がみえた。令嬢が、みえるだけで中がどんな風になっているのかまではわからない。
牢の令嬢が私に気が付き、格子の隙間から覗き込む。
「貴女!なんで生きてるの!貴女さえいなければ!こんなことに、ならなかったのに!」
ルディの用意した椅子に座り、牢の令嬢を静かに見据えた。
「私がいようが、いまいが、貴女は誰かを手に掛けたわ。「私」さえというのはただの言い訳」
「うるさい!」
「私が自業自得なら、あなたも自業自得でしょ?」
令嬢は歯を食いしばり、睨みつけた。私の隣にいたルディに気づくと、笑顔になり声色を変える。
「私は、フェルディオ殿下を下賤な者から守るためにしましたの」
おいおい、下賤と言った?
「これはすべての貴族の総意ですのよ!」
ルディの初めて見る、目に背筋が凍った。
反省するどころか、まだ敵意を向けるなんて…
「そうか、総意か……」
ルディ…怖いよ。殺気を抑えて……。
「あなたに言っておくことがあります」
「なによ」
「私は、隣国の王妃様と殿下の母君、妃陛下から後ろ盾をしていただきました」
「は?」
目を見開き、私とルディを見つめる。妃陛下の後ろ盾の意味を少しは理解したようだ。
「私に害をなしたということは、あなたは、隣国からも、この国からも敵と見なされた、ということです」
「あなたの言う総意を他の貴族、あなたの親にも伝えるが、あなたの親からは『法に則り処罰をあたえるように』と言われている」
「うそよ!そんな……!」
叫びながら涙を流す令嬢は肌はくすみ、髪もぼさぼさ。私が眠っている間に拘束されたのだから、1ヶ月は牢で過ごしていたんだろう。
「私も、あなたにはこの国の法で罰を受けて貰う。ただし、そこには私と殿下の私情はない」
「…で、ここからは私の私情」
ほんとに、これは私の八つ当たり。
「ホント!ないわーないない!私とルディを引き離したいなら、ルディが私を嫌うようなことを考えなよ〜毒?呪い?安直過ぎ!こっちは夏季休暇が、パーよ!あなた、バカなの?バレないなんて、よく思ったよね!罰を受ける覚悟がないなら、始めからするんじゃない!」
地下牢に、声が響き渡り、私はちょっとスッキリした。
「ちょっと、待って……呪い?私がしたのは薬だけよ!お腹が痛くなるくらいって……呪いなんて知らない!……そんな…なんで…」
令嬢はすっかり大人しくなってしまった。
ルディの手を取り、地下牢から出た。
「…ありがとう。言いたいこと言ったらスッキリした」
ルディの硬かった表情もすこし和らいでる。
「ふふ…、なにあれ…ふふ…バカバカって」
笑い出したら止まらなくなったようで、お腹を押さえている。
「だって、本当のことでしょ。もう少し頭を使ってほしかった」
あの地下牢で私に向けた目……。
『お腹が痛くなるくらい…、呪いなんて知らない』
お腹が痛くなるくらい?何か話が噛み合っていない…。
何かがおかしい…。ルディの腕を掴む手が震えた。
「…でも、あんなに敵意をむけられるのは……怖いね」
震える手の上にルディの手が添えられ、震えが止まった。
見上げた先にあるのは、優しい目。大丈夫と言われた気がした。