*夏季休暇でしたかったこと*
歩けるまでには、解呪が進んでいる。
ある日、妃陛下から2人だけのお茶会に呼ばれた。王城の庭にある、ガゼボだ。近くには噴水もあり、水の流れる音が心地良い。時間的にガゼボを覆うように、日陰になっている。
「招待していただ……」
「そんな堅苦しいのはいいから!ささっ座って」
お辞儀をして、席についた。テーブルにはケーキスタンドに焼き菓子や小さなケーキが乗せてある。
メイドが紅茶を淹れてくれた。
「いい香りですね」
ほのかに香る紅茶はブレンドしたものだろうか。
「紅茶、好きなの?」
「ええ…まぁ」
前世では……ダージリンも好きだったし、フレーバーティも専門店で茶葉を買って飲んでた。
「好きなものから食べて。テーブルマナーは気にしなくていいから」
「は、はい…」
マナーを気にしなくていいと言われても、妃陛下の前にして緊張もするし、もし変なことしてしまったらどうしようと悩んでしまう。
「ナナシさん……フェルディオが呼んでいる〝ナナ〟でいいかしら」
「も、もちろんです」
「ナナ、夏季休暇ほとんど王城で過ごしてしまったけれど、何をする予定にしてたの?」
そういいながら、ケーキをお皿に取り、私に差し出した。お礼を述べつつ、一口食べる。おいしい。チーズケーキだ。舌触りなめらかで、チーズのコクがいい。
「えっと、こちらの孤児院に行ってみようと思ってました」
「どうして?」
「私が孤児ということもあるのですが、生まれ育った所には孤児院がなかったので、街の人たちの協力で孤児院を建てました」
後を絶たない捨てられる子たちに住む家と働いてお金を得る仕組みを作った。私1人ではできない、みんなの協力があってこそ
「他の国の孤児院を見て、やり方とかを知りたいと思ったんです」
「それは…是非こちらからお願いしたいわ。ナナだから気づくことがあるかもしれないわね」
ケーキを食べ終わった後に、別の焼き菓子をお皿に置いてくれた。これもおいしい。どのお菓子も紅茶にあう。
メイドは2杯目を淹れてくれた。1杯はストレートにして、2杯目は砂糖とミルクにする。
「もう1つしようと思っていたことがありまして……」
「何かしら」
「短期就労をして…お小遣いを……」
妃陛下もメイドも意外だったのか、目が点になってる。
「学費は王妃様のご厚意で無償にしてくださってるのですが、消耗品や剣の手入れに…お金がどうしても必要になるので…」
なんか…まずいこと言ったかな……でも、本当のことだし。
「フェルディオの良き人だから、お金に関して遠慮しないで…とは言えないわね」
孤児で男爵位はあるが、平民で……治療療養とはいえ、滞在させて貰っているのに、個人的なことまでお世話にはなれない。
「短期就労って、どんなことをするの?」
「ええっと、あちらの国でしてたのは…、店内掃除、食堂だと、皿洗いに食事を運ぶウェイトレス……、困りごとの相談も受けました」
「困りごと相談?」
「はい、お店の売り上げを伸ばしたいとか、女性なら気になる相手を振り向かせたいとか、男性なら男らしくなりたいとか……なかには私を口説こうとする人もいました」
売り上げの相談は前世の知識でなんとかなったけど、さすがに男女の相談は無理があった。その手の相談はほとんど聞き役で終わってる。口説かれた時はたぶん冗談なんだろうけど、しつこくて困った。
「それは……フェルディオに言わない方がいいわ……」
「ナナ?口説かれたなんて、初めて聞いたよ」
ルディ…いつの間に…
「フェルディオ、これは女同士のお茶会よ。あなたが来ては無粋でしょ」
「まあ、いいではないですか。ここも含め王城は私の家なのですから」
「ものは言いようね。男の嫉妬ほど醜いものはないのよ。それに口説かれたと言っても、幼いころの話でしょ?」
妃陛下にもルディにも、一生懸命に首を縦に振った。なんか下手なことを言ったらマズイと思う。
ルディはわかってくれたようだ。
「で、ナナはお金に困ってるの?」
「今後も必要になると思って……」
「必要なら、私に頼ればいいのに」
いや、そういうことではないんだけど……
「無償でしてもらうわけにはいかないのよ。もう少しナナの気持ちを組んであげなさい」
ふむ…と、考え込んでいる。
「無償じゃないならいいんだね」
「そう……ですね?」
「では、王城でメイドの短期就労はどうだろ?」
ぐぉほっ、ごほっごほ……
「あら!いい案ね!そのときは私の専属メイドということで。これはフェルディオでも譲らないわ!」
「………しかたないですね。まぁ、母上なら安心ですが」
私に決定権はないんですか。