妃陛下
数日が過ぎ、解呪が進み足首から足の指が動かせるようになった。支えがあれば立てるようになったが、歩くまでには遠い。
どうやって歩いてたっけ?メイドの支えで立ってみるが立ってるだけで、変な筋肉を使ってる感覚。足が震える。これもリハビリ!踏ん張れ!私。
「いつもありがとう」
お世話してくれるメイドに感謝しかない。1人では着替えも食事もできない。
「いえ、それが仕事なので」
できれば、仲良くなりたい気持ちがある。他愛ない話とかしたいけれど、彼女たちも〝仕事〟としてお世話してるし、線引きも大切なんだろうな。公私混同はダメみたいな?
立つだけでも疲れ、またベッドに横になった。ノックが聞こえ、扉が開いた先にはメイドと騎士といっしょに妃陛下が立っていた。
「少し…お話、よろしいかしら」
「は、はいぃ。ど、どうぞ」
ベッドから降りようとした私を止めた。
「そのままで」
騎士がベッド側まで運んだ椅子に、妃陛下は座る。気品あるたたずまい、ただそこにいるだけなのに、私にも他の貴族にも、ない雰囲気がある。
「無作法、失礼します」
「いいのよ。仕方のないことですもの」
妃陛下は、なんのご用事で来たのか…。滞在してるのにあいさつもお礼もまだだ。
「妃陛下、治療のためとはいえ、長く滞在させていただきありがとうございます」
「いいの。貴女は被害者よ。しかもフェルディオ絡みの……」
まぁそうなんですけど……。毒と呪い、2段構えなんて。
「私も、陛下絡みで、学園で嫌がらせがノート3冊分あったの」
「!?3冊!」
過去のこととはいえ、笑顔で語るには壮絶な感じがする。ノートって自分で書いたんだ。
「それがあって、私と同じ年代の貴族たちは、その子共たちに言いつけてるそうよ。王族の良き人に手をだすなってね」
それで、陰口はあっても露骨な嫌がらせはなかったんだ。でも今回、毒と呪いがあったわけだよね。
「たぶん、バレないだろうって高をくくったのでしょうね」
バレなければ、何をしてもいい?人として終わってるんじゃ……
それで、ルディは…私が倒れて…、自分を責めて……
「貴女は、フェルディオの良き人なのよ」
「その……殿下はずっと何か考え込んでいるようで…もしかしたら……私のことで迷惑がかかって」
なんだろ…言葉が勝手に出てくる。我慢していたことが、不安なことが……。
「私がいると……ルディが苦しんで悲しんで……」
涙が、あふれて…止まらない。
「私のせいで…わたしのっ……」
「フェルディオのこと…、こんなに想ってくれてるなんて幸せ者ね」
妃陛下は私を抱きしめて、背中を擦ってくれた。ひたすらに泣いた。泣き止むまで……ずっと。
「あらあら…せっかくかわいい顔がぐちゃぐちゃになっちゃったわ」
メイドからタオルを受けとり、顔中の水気を拭いた。泣きすぎて目と鼻が痛い。
「取り乱して、申し訳ありません。妃陛下」
「泣きたいときに泣かないと、心が壊れてしまうわ」
それと、と続けた。
「私のことは〝お義母さま〟って呼んでね」
へ?それは、まだ早いのでは……
約束よー……部屋から出ていってしまった。
「フェルディオ、聞いてたの?」
「は…い」
「寂しい思いをさせないの!…自分のせいだと思うならしっかり側で支えなさい」
この国に来て、泣くことが増えたな。
私、こんなに情緒不安定だったのかな。
妃陛下が去った後に、そぉっと覗くルディに気づいた。私の泣いていたの見られてた?たぶん、顔……ひどいかも。思わずタオルで隠してしまった。
「ナナ……あの。…どうしたら、ナナを守れるだろうかと、ずっと考えていた」
私を、守る?
「婚約者として発表も考えたんだが………それではナナの気持ちを無視してしまう」
そう……私が自信がないと言って、ルディの気持ちの応えを待ってもらってる状態。
わたしを守るために、ずっと悩んでくれてたことが嬉しかったし、それでもルディを悩ませてしまった、そんな思いもある。
「これだけは言っておくよ。私はナナを手放す気はない」
ふぇっ…タオルで隠したままの、顔が熱い。
「ナナを守るために、イザベラ王妃にお願いした」
イザベラに?……久しぶりの友の名前に、懐かしさを感じだ。元気にしてるだろうか。お腹の赤ちゃんは無事に育っているか…
「ナナには悪いが、この国でナナに起こったことを手紙で伝えたんだ」
タオルの隙間から、ルディの顔を覗く。
「そしたら、私がついていながら、なんて事になってるのか!ってお叱りを受けたよ。そして、ナナを心配していた」
イザベラ…心配してくれてるとはいえ、ルディにはどうしようもないんじゃないかな…
でも、イザベラ元気そうで、よかった。
「で、私の提案を受け入れてくれたよ」
「ていあん?」
「ナナはイザベラ王妃にとって命の恩人だ」
あの出来事のことか。
イザベラに扮していたときに、リリアーナに魔法で攻撃され負傷した。それがあったことで、リリアーナの罪を問うことができたのだが。
「命の恩人として、王妃が後ろ盾になってくれた。これは学園と国全体に公表する」
後ろ盾があれば、私に何かあった時に、その国の敵と見做される。
確かにこれは、強い味方だ。
「後ろ盾になってくれる人がもう一人」
「?」
「私の……母だ」
妃陛下!これは…願ってもない申し出だ。
「それって……」
でも…ルディの身内が後ろ盾になったら……もう確定、間違いなし!になるよね。
『お義母さまって呼んでね』
Oh……決定事項になってませんか?
「大変、ありがたい…もうしでです…」
「すまない…ナナの身の安全と、天秤にかけられては、断れなかった…」
返事を返していない内に、外堀から迫られてる感じだぁ。