雨の中
グレアが選んだ剣で、もう一度手合わせをする。グレアには受け流されるが、最初に選んだ武器より動きやすかった。
グレアがもう1本の剣も持ち、構えた。
「これからが、本番」
もう1本の剣は、始めに使ってた剣よりさらに短い。左右で持ち方が違う。双剣ならではなのだろうか。
どんな動きをするのか、剣を振ってみる。左の剣で受け止め、右で攻撃をした。避けることができたが、動きが素早い。ひとつを弾き返しても、もう一つの剣で斬り込まれる。手数も多い。
「ここらへんにしよう」
湿気を含んでいるため、蒸し暑い。汗をかき、余計に肌がベタつく。
2つの武器に集中しないといけず、精神力が削られた感じだ。
「ドノ親方!剣の重さはこれでお願いしたいです」
「親方か〜!いい響きだな。わかった、まかしとけ!」
今まで使っていた剣も預け、店を後にした。
グレアも私に続き歩く。
「ありがとうございます。いい剣ができそうです」
「それならよかった」
まさか親方が兄弟子で、ドノが弟弟子とは。世界は広いようで狭いな。
「先輩は何カ国冒険したんですか?」
「あっちこっち行き過ぎて忘れたな」
グレアから、印象に残った国の出来事、面白かったことなど聞かせてくれた。それだけでなく、戦争をしている国もあると教えてくれた。
「そういえば、君の髪色と同じような冒険者を見たことがあるよ」
「え?」
「その髪色の冒険者は魔法だったな。パートナーの剣は眼帯をしていた」
何かその人たち、知ってるかもしれない。獲物の捕り方捌き方を教えてくれた剣士は眼帯をしていた。魔法師の方はいつも布で髪を覆っていて色は分からない。
「その人たちどこで会ったんですか?」
「すまない。忘れた。もし、君が冒険か旅をするならどこかで出会えるかもしれないな」
同じ人物とは限らないし、たまたまかもしれない。
……そうか……。
「各国を巡る旅……か、それもいいかもしれない。いつか行ってみたいです」
曇天の空から、ゴロゴロと音が鳴る。雲がますます黒くなっていた。
「……ナナ…、どこかへ行くのですか?」
へ?聞き慣れた声。振り向くとメガネをかけ、髪色を変えたルディが立っていた。
私の横に立っているグレアに鋭い目を向ける。
「あ、こちらは同じ学園のグレア先輩で、鍛冶屋を案内してくれて……」
ホントのことだけど、なんか言い訳っぽくなってしまった。
「君の彼氏?」
「えぇっと…」
ルディは足早に近づき私の手を取り肩を抱き寄せた。
ひぇっ…、
「ナナは私の想い人です。……案内ありがとうございました」
「!」
では失礼……と、私を引っ張って歩く。
明らかに怒ってる口調。何に怒ってるんだろ…。
に、しても!私が想い人…。おもいびとって言った!?
それとも、あの場から、去る口実?
行きついたところは、買い物の時にも来た、開けた公園。ようやく足が止まったと思ったら、振り返り私と向き合う形になった。
「どこか…行ってしまうのですか?」
苦しそうな顔、震える声。掴んでる手の力が強い。
「今は、学園もあるので行かないよ。卒業したら他の国に旅に行ってもいいかな…と、思っただけ…」
「旅をして………それから?…ここに帰ってきますか?戻ってきてくれますか?」
どうしてそんなことを聞くのだろ。私の帰れる場所は限られているのに。
「馬車で婚約者はいるか、私に質問しましたよね」
「えっと、確か…陛下がルディに任せていると、」
婚約者を決めていないから、他の令嬢たちはチャンスがあるって思って、私を連れてきたことで、陰口とか噂がたって。
「あの時には、伴侶にしたい人を決めていました」
伴侶……、
その言葉になぜか寂しい気持ちになる。
旅の道中に感じだ好意は、私の勘違いだったんだ。
ルディの好きな人がみんなに知られれば、私の噂はすぐに消えるはず。
「ルディ……?うぁっ」
突然引っ張られてルディの胸の中に入ってしまった。すっぽり包まれる。ルディの匂いとぬくもり。でも震えている。今どんな顔をしているのか、見えない。
「……ナナ…好きなんです…、伴侶にするなら……、ナナでないと……ダメなんです……」
その言葉に、驚きで言葉がでなくなった。
私の…ことが…好き?
「この国に来たばかりで、学園も始まって、慣れない環境で……自分の想いを告げては…ナナの負担になると思って……」
雲はますます陰り、ポツリ…ポツリ…雫が落ちては、2人に降り注ぐ。
「あんなことがあって、ナナが苦しんで……もうこの国も、学園も嫌になって……帰ってしまうのではないかと……不安で……」
私もルディの背に手を回し、そっと撫でる。
「帰りません。また、あの地獄の馬車酔いをさせるつもり?」
「させるものか。私がさせない。あの国に行く時も、どこか旅に行く時も、私も一緒に行く」
いや…馬車酔いは私の問題で……
あの時、感じた…いや学園でも、ルディの好意は本物だったんだ。
「ルディの好意には気づいてた。……でも私は…それに応えるだけの自信がない…から……」
「私の事、嫌い?」
「……嫌いじゃない」
一瞬ルディの腕の力が緩んだ気がしたが、もっと力を入れて抱きとめられた。
「今は、それでいい。嫌いじゃないってわかったから……ナナが自信を持てるように、私も努力する」
少しずつ、雨足が強くなり…それでも離さないルディと私は結局ずぶ濡れになってしまった。