鍛冶屋にて
メイズとシーブルとの手合わせの後、シーブルにお願いして、あの武器……ハルバートを持たせてもらったが、かなり…いや、すっごく重い。これ振り回してたの?シーブルって服の下はムキムキなのでは?
また、生徒会室に呼び出されると、ルディが居て怪我のことを心配してくれた。今回は傷も浅いし、ちゃんとした治癒師に治してもらったから、傷も残ってない。
右肩は、私の治癒が拙かったために、薄っすら傷跡がある。
会長が私を呼び出したのは、気兼ねなくルディと会えるから、らしい。
生徒会に入ったら、密会していいと言われたが、保留にしている。
会えるのは嬉しいけど、生徒会と密会とは話は別………。
でも…、わたし……うれしいんだ……。
『噂の婚約者殿』
ふとしたときに、脳内に響く。
思い出すたびHPが削られてる気がする。
いや、そもそも婚約者ではないし?。
雨の日が多くなった。異世界だけど乙女ゲームの世界観だからか、きちんと季節はある。雨か…
貧困区の時、雨季になると、唯一の川が濁流になっていたな。穴の空いた屋根と横殴りの雨でいつもビショビショになってたな。……みんな元気かな。
ジュリ姐さんから、鍛冶屋を紹介してもらった。地図を描いてくれたが、わからない。なんで下着店スタートなんだろう。
とりあえず歩いてみたけど、さっぱり分からない。スタート地点に戻ってしまった。
もう一度歩いていると、
「お困り事ですか?」
男性に声をかけられた。振り向くとアッシュブロンドの…男性。
「あ、君!シーブルと互角に戦った人じゃないか!」
え?どうしてそれを?
いや、互角ではないよ。押されてたし……。
「ああ、私はグレア、2年生で剣だ。冒険者もしている」
ああ!学園施設の説明のときに、会ったけど…髪型が違う。学園のときは前髪をあげてくくっていて、おでこが見えてた。
今は片目が隠れるほど下りている。
「髪は、教師に注意されたから、学園では前髪をくくっている。普段はこっち」
キラリと笑顔が眩しい。髪型1つで印象が変わるものなんだな。
服装もかなり違う。襟首が大きく胸元が見えるくらいに開いていて、ダークブラウンの胸当てに、ズボンは布と革を組み合わせている。ベルトにウエストポーチ。腰に剣が……2本。双剣?
「学園に入るまで、国々を冒険してきたんだ。この格好が落ち着くんだ。で、君はどこに行こうとしてるんだ?」
グレアにジュリ姐さんの手描き地図を見せた。
「鍛冶屋に行きたくて…」
手に取り、紙を色んな角度で見ている。
「また、雑な地図だな」
よかった。私が変ではないんだな。グレアに雑だと言わしめた地図は役に立たないことがわかった。
「ま、だいたいわかるから、着いてきて」
「ありがとうございます」
グレアのあとをついていく。
空は曇天。日は高いはずなのにいつもより暗く感じる。
下着店がスタートなのは、ほぼまっすぐの、道だった。曲がり角があるように見えたのは、ただ線が歪んでただけだった。
火を使う鍛冶屋だけあって、隣接する店との感覚は、広い。
グレアは扉の前で、立ち止まり「ここだ」と親指でさす。
「私の剣もここのなんだ」
中に入ると、金属と革の匂いがする。この感じ久々だ。カウンターの奥から、ぼっさりした髪をした男の人が出てきた。背は低め。服から見える腕は、鍛冶屋だけあって筋肉質。
「おう、いらしゃい」
「おやじ、客連れてきた」
私は会釈をする。
「ジュリさんから教えてもらって来ました。剣を作ってほしくて。これが、前に作った剣です」
自分の剣を渡す。男は鞘から剣を抜き、確認する。重さに長さ。
「ふん……、お?この刻印……」
剣の柄に小さく模様が彫られている。あれは、親方の刻印でもある。
「兄貴!」
え?兄貴?
「すまねぇ。この刻印は兄弟子のものなんだ……兄貴の剣が見れるなんて……」
鼻をすすりながら、涙をぬぐってる。
「で、作ってくれるんだろ?おやじぃ」
「もちろんだとも!兄貴が認めたんだ、オレが断るなんてしないさ」
店舗の奥……ここも、あの鍛冶屋と同じ庭と工房がある。男は「ドノ」と名乗った。その庭に通された。
自分の要望を伝える。重さは、この剣より重く。長さはもう少し長めでもいいと思う。刀身は細めで…。
ドノは武器の入った木箱を指し、選ぶよう言われた。一つ一つ重さを確かめながら、振ってみる。
「このくらいかな……」
選んだ剣をドノに渡す。
「なるほどな。そうすると、この重さでは、この剣みたいな細さにはできない」
「なるべく細め、だからそれより太くなってもかまいません」
「わかった」
「ねえ、その選んだ剣で、私と相手をしてくれないかな」
見ていたグレアが私にお願いをしてきた。この前のメイズとシーブルもそうだが…なんで手合わせしたくなるんだろう。
「はい、胸をお借りしますね。グレア先輩」
庭の真ん中あたりに移動し、剣を構えた。グレアは武器はひとつだけで構えている。
「その剣に慣れる間、私はこれだけで、いかせてもらう」
慣れない剣で、双剣はきついかもしれない。
剣を打ち込んでみる。逆手で持った剣1本ですべて受け流される。その剣だって、普通の剣の半分くらいの長さ。
また受け流され、持ち方を素早く変えると、剣を叩き落とされた。
「重さが違うんじゃない?」
グレアは剣を拾い、片手で重さを確認しつつ、木箱の武器を取り出し吟味する。
「これくらいはどう?」
渡された剣の重さがしっくりきた。
「これ、いいですね」
「じゃ、もう一度」
元の位置に戻り構えた。