生徒会長メイズとシーブル
あれから月に3回、各学年の女子生徒をブチのめす………じゃなかった…訓練をしている。
指導教師がつき、女子生徒VS私の訓練を見る。指摘やアドバイスがあることで、女子生徒たちも技術が上がっている。
女子生徒たちも私に慣れてきたようで、アドバイスを求められたり、会話もするようになった。
一部の女子生徒には怯えられているが……。
この訓練を通じて、強化された体に慣れてきた。そろそろジュリ姐さんに鍛冶屋を教えてもらいたい。剣が軽すぎる気がする。もう少し重みもあっていいと思っている。
ある日、呼び出しを受けた。あんまり関わりたくないと思っていた『生徒会』のメイズからだ。
「は、はじめましてナナシです」
「生徒会長のメイズです。折り入ってお願いがあるんだけど」
生徒会室の重厚な席で、話を切り出された。
生徒会にはあまりいい印象はない。主にバカ王子のせいでもあるので、なるべくなら関わり合いにはなりたくない。
「女子生徒の合同訓練を見学してもいいかな」
意外な申し出に、少し驚いてしまった。
「あ、もちろん…かまいません」
「ありがと」
近くの席には、書類を書いてるメガネのシーブルもいる。こちらに目配せしてまた、書類を続けた。
次の女子合同訓練に生徒会長メイズとシーブルが観客席にいる。2人に気づいた女子は黄色い悲鳴をあげている。メイズは女子に手を振る→悲鳴→手を振る→………
2人……人気なのか…。
女子がうるさいから今回だけにしよう。
私のパートナーは参加した女子からランダムに選ぶ。今日は、「不満なんてない」と言っていたツインテの女の子だ。相手と手合わせを始めるが、パートナーの魔法が自分に当たらない。
一度止めて確認をする。
「もしかして、私の動きが速い?」
「い、いえ…発動はできているんですが、ナナシさんのところまで届かなくて…」
ふむ。距離を確認しようか。
まず、手が届くところから始めて、少しずつ離れていく。問題なく届いてる。もう一歩離れる。
「届かなくなりました」
「では今後、剣の人に自分の届く距離を伝えて、剣に動いてもらおう」
「それでいいんですか?」
もちろん、と笑ってみせた。
剣は魔法に任せきりとはいかない。逆も然りだ。発動できても向けた先に剣がいなくなってたら、意味がない。剣は魔法に対して気にしないといけない。魔法も剣の動きを気にしないといけない。
それに魔法は剣が、どのタイミングでどんな魔法が必要か見極める必要がある。
パートナーは相手のことをしっかり知らないといけない。
「じゃ、やってみようか」
再開し、魔法発動時に範囲内まで下がる。魔法がかかったら、また攻撃を仕掛ける。
今度はうまくいった。ツインテの娘はうれしそうだ。ハイタッチまでしてくれた。
観客席から拍手が聞こえた。音の方を見るとメイズだ。
「始めてのパートナーで、そこまで連携が取れるなんて素晴らしいよ」
ツインテの娘もありがとうございますとメイズに伝える。
「僕とも相手してよ」
え?
「おい!何言ってるんだ」
メガネさん止めてあげて…!
「シーくんも、してみたいんでしょ?」
くん?
「その呼び方やめろって…!」
「武器も持ってきてるくせに〜」
え!まじで?最初からそれ目的だったりする!?しかし…2人仲いいな。
女子の目はもしかして…腐女子的なアレ?
「君のパートナーはそこの彼女で」
「えぇぇ〜〜!ムリムリムリ!」
私に、ツインテの娘がすがりつく。さっき連携できたばかりだし、不安はあるだろう。
「あのお二人、実技で1番強いんです!」
へ?……マジか〜。そりゃ不安だわ……。
「ん!大丈夫!やれるだけやろう。支援補助だけでいいから、攻撃は任せて!」
半泣きのツインテの娘を説得し、渋々了承してくれた。
「わかりました。申し出を受けます」
2人は、わたしたちと向き合う。
メイズは魔法…。シーブルは…何アレ
長い柄の先に斧…先は尖ってる。斧の反対側は鉤爪?
シーブルの得物なの?涼しい顔して、なんて武器使うの〜。
剣以外と、しかもあの形状は始めてだ。槍と斧の複合武器。厄介だわ。
「へへ。不公平だから、君はこの剣を使ってね」
渡された剣は騎士が使うような、いたって普通の剣だ。鞘から取りだし振ってみる。
いつもの剣が『軽い』と思っていたから、重さ的には丁度いいかも。長さは自分のがいいな。
「じゃ、まず先に強化魔法をお願い」
こっそり後ろのツインテの娘に伝える。
メイズに合図をお願いした。
「じゃ、始め!」
合図と共に互いに前に出る。シーブルは槍を突き出す
、剣で横へ受け流すと、今度は斧の部分で、横から攻撃が来る。実に厄介だ、その先に入り込めない。
受け流したときに、重量を感じた。もしかしたら斧は『切る』ではなく、『叩きつぶす』のではないか。それにその重量がある得物を軽々扱ってるシーブルはどれほど力があるのだろ。
シーブルが横へ振りかぶった隙に、接近したが足元から土の槍が出てきて、瞬時に後退した場所に振りかぶった斧をギリギリで受け止める。土の槍はメイズか。あの武器で接近がロクにできず、さらに振りかぶった隙を魔法で補う。
『1番強い』……確かに、これは強い。
槍をギリギリ交わしたが、今度は鉤爪で剣をかけられ、そのまま地面へ押さえつけられた。重さもあり剣が抜けない。
突然、シーブルの足元からつむじ風で砂が巻き上がった。シーブルが怯んだ隙にツインテの娘の方へ後退するが、剣は鉤爪に取られたまま。
「魔法!ありがと!すごい!距離、離れてたのに」
「無我夢中で…」
武器はない。目の前はまだ砂ぼこりでシーブルの様子がわからない。
「……! 強化!全力で!」
「はい!」
砂ぼこりからシーブルと共に槍が突き出てきた。
握力腕力を強化した手で槍を横から掴み、思い切り左へ反らした。
「つっ…」
鉤爪が肩をかすり、血がにじむ。
あの時、私が避けてしまうとツインテの娘に当たってしまう。『剣は魔法を守らないといけない』
咄嗟の判断だった。
「そこまで!」
メイズの声が響く。
すぐに治癒師が、治癒をしてくれた。
ツインテの娘は危機がわかったようで、その場に座り込んでしまっている。
「ごめん、危険な目に合わせて……でも、ありがとう。助かった」
「うあぁぁ〜怖かったよ〜」
大粒の涙を流し私に抱きついた。よしよし。
私も…怖かったー……
「判断力、身のこなし。すごいね!」
「いえ、私もいい経験になりました」
メイズはいつも通りの調子で、笑顔だ。
シーブルは息切れどころか、スンとしてる。
私はだいぶ疲れてるんですが?
「特に最後の避け方!最高!」
最高!じゃないです。槍を掴んだが、強化していたとはいえ、かなり重かった。
あんなの振り回して、よく涼しい顔できますねぇ。
「でも怪我させちゃったね。シーくん、殿下に怒られちゃうね」
ん?どうしてそこでルディが出てくるのかな?
メイズは私に耳打ちをする。
「噂の婚約者殿」
はっ!?……
ちょっと、忘れかけてたのに………思い出させないでぇ。
シーブルの武器はハルバート。
ハルバートってかっこいいよね