フェルディオの国に
ナナシは転生者である。捨て子で、見える景色は小さいかったが、次第に景色が広がった。フェルディオの過保護な旅を経て、フェルディオの国に到着した。
王都に着いた私は、フラフラしながら陛下に挨拶をした。馬車酔いであまり憶えていないが、ルディが怒られていた気がする。
「無理させるんじゃない!」
「申し訳ありません…」
学園の準備は明日にし、陛下の好意で王城に泊まることになった。
部屋へ行くのにも、足元がふらついて、視界も体も揺れてまっすぐ歩けなかった。そんな私をルディが抱きかかえ運んでくれたが、本当は恥ずかしいと思うところを、酔いのせいでそれどころではなかった。
メイドや騎士たちは、私を見てはヒソヒソと話をしている。まぁ…男爵位があるからといって、私は孤児で元平民。王太子といっしょに来たのだから、いい印象はないだろう。
最後のラストスパートが効いた…。ルディの膝の上は揺れの緩和の効果はなかった。あんなに急ぐ必要ってあったのか?
明日体調が戻ったら、学園に行き、早めに寮に入らせてもらおう。
少し休んだら、気分が楽になった。
「ナーナ!」
扉の向こうから声がする。ルディの近くに別の誰かがいるようで、ルディを止めようとしている。
ー殿下!女性の部屋に入っては、いけません!
ーここは私たちに任せて…!
そこで、しっかり止めておいてくれ…
勢いよく扉が開かれ、ルディが入ってきた。……押し切ったのか、メイドと騎士を。
「ナナ…大丈夫?」
キチッとした服に着替えている。王城での正装だろうか。よく似合っていると、……思う。
そんなルディがワゴンを押している。
「スープ、持ってきたよ」
「……殿下、ありがとうございます」
…?ルディ…なんかしょんぼりしている?
「もう『ルディ』と呼んでくれないの?」
メイドも騎士も…私も「!」言葉にならない声を上げる。旅の間ルディと呼んでいたことがバレたようなものだ。隠してもだめだ。
「殿下……旅の間だけと、約束しましたよね?」
もう旅は終わった。ルディと呼ぶ必要もない。きちんとした敬称でなければ、本来不敬にあたる。そのことくらいはわかる。
「わかった。しばらく我慢するよ」
……がまん?しばらくってどういうこと?
「スープはベッドで食べる?」
こんな高級な布団の上で?もし、こぼしたりしたら……と思うと恐ろしい。
「いえ、テーブルでいただきます」
体を起こし、ショールを羽織った。
ルディは手を差しだす。……これは…手を取っていいのだろうか。後ろのメイドと目が合うと頷いた。…いいんだ…
ルディの手を取り、ベッドから立ち上がろうとしたが、ふらついて倒れそうになった。メイドも騎士も駆け寄ろうとしたが、その前にルディが受け止めてくれた。まだ酔いが残っているようだ。
そのまま、ソファまで連れて行ってくれた。ソファも高級だ。座り心地がいい。ルディはワゴンのスープを目の前に、置いてくれた。
そういえば…マナーって。
「マナーは気にしなくていいよ」
気を遣って言ってくれたのか…。ありがたい。
「ありがとう。では『いただきます』」
具は小さめで、食べやすい。胃に優しいミルクのスープだ。
ルディは向かいのソファに座って、私の食べてるところを眺めている。笑顔で私を見ているルディの様子を見て、メイドや騎士は驚いてるようだ。
旅の間、ルディの視線は常に私にあり、馬車でも食事のときでも私を見ている。
前世は彼氏いない歴=年齢だった。恋愛に関してはもちろん経験もないし、他人の好意に疎かったと思う。
旅の間、気を遣ってくれたこと、熱を帯びた目。熱い手。否応にも気づく。ルディの好意に。
私は…どうなのだろう。
私は気づいてなかった。メイドはいつの間にか、部屋から出て、「ねー!きいて、きいて!……」私とルディのことを言いふらしていたことを。