復讐勇者~召喚勇者の待遇が良くなった話
勇者、実体は、異世界から召喚した黒い髪の獣だ。
姫と結婚させてやるとでも言えば、喜んで魔獣、いや、ドラゴン、魔王にすら挑む。
まあ、もちろん大事な姫はやらなかったが。
聞けばあちらの世界では平民と言うではないか。
「陛下、女神信仰圏公会議より、勇者派遣の要請です」
「ほお、きたか。公式には勇者はいることになっているからな」
勇者ケンジは15年前に誅殺をした。表向きは病死だ。
その後、魔道士との間に子をなしていたと判明した。
「ケンジの子をつれて来い。勇者殿が魔王城に出立する儀式を行う」
「御意」
・・・・
数日後、王都近郊から連れてこられた勇者は、今年14歳か。女だ。背が低い。ボロいローブを羽織っている。手には不格好な魔法杖を持っている。鉄と木で出来た杖だ。
母が魔道士だからか。
一応、暴走しても大丈夫なように、宮廷魔道士たちが、ワシの前に障壁を展開している。
「平伏をせんか!膝をつけ」
どうにも様子がおかしい。
「何故、平伏するます?」
まるで、痴呆のような言動だ。
「クス、やはり、野蛮人だ」
「まあ、うちの5歳の子の方が賢いわ」
見物に集まった貴族の面々は遠慮がない。
言語もおぼつかないのか?
「陛下・・・」
宰相が耳打ちをした。
何?世話係を任せた男爵は、教育を施さずに、塔に閉じ込めたままにした?
中抜きをしたか。
6歳で教育を打ち切り。
食事、トイレ、湯浴み。最低限の世話はやってきた。
王都郊外の勇者専用の塔、勇者の居室ではあるが、牢屋でもある。
意にそぐわない言動をしたら、塔に閉じ込め餓死させる作戦だ。
ワシはこの場では、好々爺を演じる。
これでも、こいつのおかげで援助金が出るからだ。
各国から勇者養育援助金が出る。ワシは愛妾と住む為の離宮の造営を命じた。
その一部を男爵に渡して任せたのに。
まあ、いい。一応、勇者の娘だ。こいつでも、出陣をさせて、戦死すれば、弔慰金をせしめられる。
「勇者殿、フードをとり。名を名乗られよ」
「名・・・分からない」
と言いながら、少女はフードをとり。顔をさらした。
「「「ホオー」」」
思わず驚嘆のため息がもれた。
顔は整っている。
髪は、まるで、月のない夜のような闇を思わせる黒、目は紺色、母の色だ。
肩までのショート、肌は若干濃いのがエキゾチックな雰囲気を醸し出す。
ワシの愛妾にしてもいいな。
しかし、自分の名前も知らない?
そう言えば、皆、こいつの名前を知らない。
そうか、赤子を抱いて供出を拒む母親の腕ごと切断して、赤子を奪ったのだった。
「屋敷では何と呼ばれていた?」
「誰も呼ばない。亡霊はマスターと呼ぶ」
また、不思議な事を言う。
まあ、いい。後で、メリーとでもつければ良かろう。
「王命である。勇者殿、魔族領に出立し、魔王を討伐せよ」
しかし、少女はキョトンとしている。
「いつ?」
「今からだ」
「どこでぇ?」
「魔族領だ。後で地図をやる」
「誰が?」
「お前が!!」
「なぁぜ?」
「はあ、魔王を討伐するのは勇者の血統の使命だ!」
「何を?」
「魔王をだ。討伐せよ」
「如何に?」
「3ゴールドやる!それで、冒険者ギルドに行き仲間を集めて討伐せよ!」
まるで、子供のような口ぶりだ。
まあ、いい。勇者を出したことが他国に対する実績になる。遠征の援助金を出させる!
「わかぁった」
すると、少女は、手に持つ杖をくるっと回して、
杖の太い方を肩につけ。杖の細い方を宮廷魔道師長に向けた。
姿勢は、武道で言う前屈立ち。前からの衝撃に強い立ち方である。
まるで、ボウガンを撃つように見えた。
「ほお、魔法杖の使い方もしらないか。障壁を展開していることも分からないか・・・ギャア」
バン!カラ~ン
ドタン!
魔道師長は倒れ、床には血が広がった。
障壁は消えた。
少女の持っている杖は64式7.62ミリ小銃であった。この世界の者には分からない。
「ヒィ、何だ。あれは・・・」
「何故、殺した!」
「私、勇者、魔王討伐の職制上は国王より上と聞いた。だから、殺した」
「意味が分からぬ!」
「お前らが行く」
「意味不明だ!衛兵捕まえろ!」
そう言えば、こいつは何故一人で来た?
男爵は?まさか、こいつが殺したのか?
少女は顔を伏し。「ククククッ」と笑った。
「(自衛隊召喚!一個小銃中隊!本部管理中隊召喚、編成完結式省略!ハーグ陸戦規定適用除外!命令かたぁ~つ。貴族たちを捕縛せよ!)」
ボア~~~
魔方陣が浮かび。輪の中心から人が浮かんでくる。
「何語を話している?」
バン!バン!
「ヒィ、雷魔法?」
「勇者、いや、勇者様だ!」
「(本部管理中隊本部、捕虜収容所の要領、その他の小隊支援!小銃中隊は援護!)」
国王を筆頭に、次々に捕らえられた。
・・・・・・
あれは、マダラ模様の服に、全員、鉄で出来た魔法杖を持つ。召喚獣なのは青く光っているから分かる。奴は異界から魔道士を召喚したのか?
仲間を呼び寄せたのか?
カツカツカツ~
奴は歩いて、玉座に座った。
足をだらしなく投げだし。
顎を動かし、ワシを呼ぶ。
「(さあ、マスターがお呼びです)」
言葉が分からない。
「ああ、命令下達、敵情、分からない。友軍、王と適当な貴族・・・う~ん。武器、剣でいいか。捕捉三ゴールドやる。これで、仲間を集めて、魔王討伐をせよ」
「ヒィ、そんな無茶な」
「無茶?父様はこれで魔王を討伐した聞いた」
「そうだが・・・」
「(マスター、意見具申です)」
「(許可する)」
「(それは、非効率的です。チヌークを召喚して、魔族領近くの冒険者ギルドに落とせば良いのではないですか?)」
「(チヌーク?燃料持つ?)」
「(マスターの魔力が尽きなければ召喚は解けません)」
「(分かった)」
また、未開な言語を話す。
☆☆☆人族領魔族領国境の街、ラクド
バタバタバタ~
街の記録によると、鉄の箱が4、空から降りてきた。
「降車よ~い。降車!」
ドン!
「「「ヒィ」」」
と蹴飛ばされて、王冠を被った者と、数十人の貴族が降りてきた。
「ヒィ、勇者様、お考え直しを!」
「配る。金貨3枚、並べ」
「(並べ!)」
一人の黒髪の少女が指揮を執る異様な集団だった。
「隊長!あれは、ミドル王国の国王と高位貴族たちです。救出しますか?」
「やめておけ、あのマダラ模様の服の召喚英雄は、女神教外典によると、終末の軍隊。『ジタイタイ』だ。魔族との最終決戦で現れると云う。実体はあちらの国の騎士団だ」
「ミドル王国、中抜きがヒドイと聞いた事がありますが・・」
「それよりも、報告だ。早馬だ。法王庁にも忘れるな」
「畏まりました!」
街の喧騒とは別に、召喚英雄たちは整列し、国王に対して儀式を行った。
「(勇敢なる国王と、その貴族達に、敬礼!)」
ビシッ!
「(直れ!)」
「(御武運を祈ります)」
「(国に帰ってきたら、命令不服従で処刑しますからご注意を、魔王を討伐するまで帰れません)」
「ヒィ、いったい何を話しているのだ!」
召喚英雄たちは、国王達に声をかけ終わると。また、鉄の箱に乗り。元来た方向に飛び立ったと伝えられる。
国王達が冒険者ギルドで登録した記録は残っているが、それ以後の成果記録はない。
王冠を被ったゴブリンがいるとの報告はあった。
少女の行方は掴めない。
鉄の箱に乗って、名前を探しているとのもっぱらの噂だ。
ミドル王国は他国の共同統治になり。調査が行われた。
召喚した勇者は、厚遇するとの規則が出来。監察官制度が早急に出来上がった。
最後までお読み頂き有難うございました。