オープンワールド22
「私は、ドロッセルマイヤー…そして、貴女は今から、クララ。そう呼ばせてください。」
ドロッセルは、輝く笑顔で私に言った…
ふと、修学旅行で立ち寄った夢の国を思い出した。
私はそこで、初めて外国の王子さまの手の感触を知ったのだった…
あの、あの時の王子さまの数倍イケメンが…私の顔面で、『クララと呼ばせてくれ』と、言ってくる。
クララ…私が、クララ( 〃0〃)
ああっ…この年になって、こんな美少女値の高い名前で、妄想だとしても、こんなリアルな白人のイケメンに…クララと呼ばれるなんて!!
こっ、こっぱずかしい(///〜///)
と、心でボヤいては見ても、やはり、嬉しくてたまらない。
私の子供時代には、ネットは無かった。
だから、ごっこ遊びのアバターはリアルな私の体になる。
そして、小学女児なんて残酷なんだ。
体の見た目でキャラ名をふられるから、私に美少女の名前なんて来ることはないし、自分から「クララって呼んでね。」なんて言おうものなら、爆笑と共にド突っ込みにあうのだ。
クララ…
そんな風に私を呼ぶのは美しい金の髪の図書館の妖精…
ああっ…ネット万歳ってきぶんだわぁぁ…
なんて、動揺する気持ちを必死になだめて、
『私が、クララ?やはり、ドロッセルマイヤーは偽名ね。』
と、格好よく指摘するタイミングを逃してしまった。
「……でいいよ。」
私は、必死で答えた。
「そうですか、衣装を私の好みにしていいと…赤も素敵ですが、やはり、ブルーのワンピースの方が似合うと思っていたのです。」
「卯月でいいよっ。名前っ(///ー///)
くっ…クララなんて、『くるみ割り人形』を意識したんだろうけど…ごにょごにょ…」
はあ…すいませんね(//ー///)美少女扱いなんてなれてないのよっ…
は、恥ずかしいのよ…
泣きたいわ。
赤面で混乱する私を見て、ドロッセルは、楽しそうに右手を思案する風に顎にあて、そして、彼は本棚から絵本を一冊持ってくると、私の前で開いた…
すると、紙のオーケルトラが立ち上がり…そして、演奏を始めた。
こ…金平糖の精の踊り?なの?
奏でる音色に驚いた…
大体、バレエ『くるみ割り人形』と言えば、『花のワルツ』だって定番だと考えていたから、まさかの『金平糖の精の踊り』がかかるなんて…思わなかった…
と、驚くのはここからで、なんだか知らんが、いきなりドロッセルマイヤーが金平糖の精の踊りを踊り出す。
頭がいたくなってきた。
が、男性用にいい雰囲気に改編されたバレエは最高だった…
このヒト、背筋がしゃんとしている。
バレエなんて踊ると、体幹を鍛えてなければ、こうも上手く片足で止まってポーズはつけられない…
『金平糖の精の踊り』は、そのバレエ団のプリマが演じる花形のソロ舞台だ。
踊り的には、派手さは少ないが、つい、見とれてしまう美しいポーズの連続なのだ。
曲も、名前は知らなくても聴いたことがあるだろうくらい有名だ。
「落ち着きましたか?」
と、聞かれて、曲が終わったことすら気がつかずにいた事に驚いた。
「あ、うん。」
私は座り直した。
それに合わせて、ドロッセルも私の横に座る。
「では、話を始めましょうか。」
ドロッセルが不敵に笑いかける。緊張が走る。
「な、何を…と、言うか、ジオ!ジオはどうしたのよっ(>_<)」
そうだった…なんか、色々あって、忘れてた…
ジオ、大丈夫だろうか?
「ああ…黒本に変えておきました。」
と、ドロッセルが私に黒革の手帳サイズの本を渡した。
「こ、これがジオなの?」
なんだか、使い込んだお父さんのビジネス手帳…と言った風の本を手にしながら聞いた。
「はい。帽子より、役にたつものを贈りたいとおもいまして。」
と、笑うドロッセルに悪意を感じないのが不気味だ。
「開いても…大丈夫?」
一応、聞いてみる。
「はい、素敵な知識が満載ですよ…開けたら…ですが。」
くくっ…と、右手で口もとを隠しながら、からかっているのを丸出しでドロッセルは言った。
「人間が良かったなぁ〜」
と、ボヤいてチラリとドロッセルを見た。
その顔には、人間モードは絶対させない、と言う意思がありありと浮かんでいた。




