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騎士

「私は剛さんの為に黒毛の美しい馬を用意しました。騎士ゲオルグに相応(ふさわ)しい装備を一揃(ひとそろ)え。」

メフィストは恨みがましく話始めた。

「騎士ゲオルグ…」

その名に懐かしさすら感じ始めるほど、ここまでの道のりは長かった。


ファウストは実在されたと言われる人物がいる。


ヨハン・ゲオルグ・ファウスト。


そう、ゲオルグとは労働者の守護聖人ゲオルギウスのドイツ読みだ。

ちなみに英語ではジョージ。昭和の『ヒロシ』的な良くある名前である。


1521年教会と揉めたルターが騎士ゲオルグを名乗って追放の旅にでたエピソードがあるので、この辺りなら、ルターっぽい、もしくは、ルターの変装だと勘違いされる、間抜けな男の話を書いても許されると思ったのだった。

とは言え、やはり、怖いので、剛の転移した姿は、ルターに間違えられるけど本当はファウスト博士だよ。みたいな設定にしたのだった。

メフィストは、そんな私の地味な設定を拾って使ってくれたのが嬉しかった。

「ええ、騎士…ナイトの予定でしたよね?」

メフィストは恨みがましく私を睨む。

「うん…」

「はぁ…どうしたら、あんな…不器用で面倒くさがりを騎士にしたいなんて考えるんでしょうか?あああ…あの人、馬に乗れないんですよ。」

メフィストは責めるように喚くけど、現代人で馬に乗れる方が珍しい。

「うん…私だって、乗れないわよ?」

「はぁ…、次元が違いますよ!あの方の場合はっ!!」

「そんなわめかないでよぅ。」

「わめきたくもなりますよ。私、これでも地獄大公の称号もあり、現在、数多(あまた)の信者を抱えるラノベ界の最強キャラなんですよ?」

「ラノベ界なんだ…」

「まあ、ワタシ、多角的に人気ありますがね?まあ、それはともかく、私は偉いんです。強いんです。イケメンなんですよ、箸より重いものなんて持たなくても良い身分なんですよ?」

メフィスト、良くわからないキレ方をし始める。

「フォークは持つでしょ?」

少し、からかいたくなった。メフィストはフォークと言われて渋いかおをする。

「日本語訳をしてるんですっ!真面目に聞いてくださいよ?剛さん…

そう、剛さん、足が短くて馬の鞍の足置きに足がかからなくて、台を使ったのです。」

それは仕方ないと思う。カーボーイ映画じゃあるまいし、馬のひらりと乗るなんて無理。それぐらいは許してあげてほしい。

「良いじゃん。アジア人なんだもん。ついでに現代の中年なんだから、台くらい使わせてくれても。」

私はため息をつく。

メフィストは、そんな私の顔に頭をふりながら、深く絶望的なため息を返す。

「ええ、そうですね、私も、そう考えたから、台を用意しましたよ。でも、そこから、足置きに足をかけて跨ぐくらいは…それくらい…普通できますよね?」

メフィストに圧されて頷く。

メフィストは、そんな私に失意のため息を吹きかけて、

「あの人は…たった、これっぽっちのことも…足をかけることすら出来ないんですよぅ…

まあ、私、手伝いました。手を踏まれましたけど、あの人の太い足を…小さな子供の足をかけるように優しく。」

「すまないね…」

「いいんですよ。そこまでは!問題はここからです。剛さん、足をかけてから尻が、尻が、持ち上がらなくて…私、この私の顔にっ、顔に尻を乗っけて馬にのったんですよぅ…。」


メフィストは泣き真似をするけれど、剛を知ってる私は、メフィストの泣きたくなる気持ちが良くわかった。

剛は不器用で、本人も意図せずこんな事がおこる。やられる方はたまったものではない。


剛の大きな尻をあのきれいな顔で受けることになるなんて!

まあ、剛も必死で馬に乗ろうともがいたんだろう。


メフィストは気の毒だと思う。思うけれど、爆笑するのを止められなかった。

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