オープンワールド8
扉の向こうにあったのは…
行きつけの図書館!
ああっ…よかった(>_<。)
馴染みの空間に少し気持ちがリラックスした。
私の深層心理に感謝しながら歴史の棚に向かう。
ああ、その前に、ジオに当分、調べものをすると声をかけて。
図書館の本読みで良かったとマジで思った。
これが書店の場合、売るための配置なので、漫画と参考書が隣とか、新刊や出版元で分けられたりとかするんだけれど、
図書館は、書籍の分類で分けられる。
訳のわからない世界で、調べものをするとなると、細かい分類は馴染みの物がいい。
ああ、ほら、歴史物も、自国と他国の他に、資料的なものと時代小説ぽい物が別れてるもん。
などと背表紙だけでワクワクして、少し緊張しながら1冊、中学生から読めそうな本を取り出した。
ゲームの世界の良いところは、読まなきゃいけないと思われるアイテムは、ちゃんと日本語に変わるところだわ笑う。
私は本を取ると、いつもの落ち着くソファに座る。
地域の図書館は人がいっぱいだけど、ここは貸しきりだ。
中庭の緑が爽やかな気持ちにしてくれる。
本を開いた。
この『なごみの国』の本は白紙だった。ベルフェゴールは、細かな設定はしていないようだった。
設定が頭に浮かんでくる。これはゲーム世界をモデルに国を作られている。
つまり、
国は配信元
王はゲームの主人公で勇者
頭に浮かぶ設定をどうしようかと考えていると、ジオが隣に座った。
「僕が筆記をするよ。」
ジオに言われて、彼には書き込みの能力があることを知った。
私は手をジオに差し出した。
また、あのカードが必要だと思ったのだ。
が、ジオは私の手を見て、綺麗な瞳を閉じて、軽くうつむきながら首を横にふる。
睫毛長い…
人間じゃないのはわかるけれど、それにしても、鳥の羽の様な…と言う形容詞が似合う、金色の長い睫毛。
小麦色の肌に、ほころびかけたベビーピンクのバラのような、柔らかい唇が映える…
「大丈夫。宝石は要らないよ。」
ジオは、胸ポケットから、シンプルな銀の万年筆を取り出した。
自分で使うのは面倒だけれど、こうして、美少年がいい感じにレトロな本を開き、おもむろに何かを筆記する…そんなシーンは、やはり、万年筆が素敵だわ。
ああ、全身純白のついでに総レースの高級そうな上着を着て、ソファにすわって万年筆を扱うとか…
もう、べつの意味でドキドキしちゃう。
万年筆って、たまにインクが飛んだりするのよね…
ボールペンだって、扱いが雑だと服につけちゃったりする事あるもん。
私は、書道を見るような緊張感に背筋を伸ばした。
「さあ、話して。」
優しくジオに言われて、私は慌てて話始める。
「ベースをオープンワールドにするわ。だから、王は、かつて、竜を退治した勇者の末裔なの。」
「竜退治?随分とファンタジーな展開だね?」
「あら?現実の…人間界の王族、貴族も基本はそんな展開だから平気よ。」
と、説明しながら、頭の中で人気の騎士のゲームが思い浮かんだ。
テレビゲームも新しいとか言われても、基本は昔話がベースになる。
竜を退治して、姫を助けたゲオルギウスの時代から、カセットゲームの勇者も同じ…
長く伝わる物語…
暖炉の横で物語る老婆がカセットゲームになり、それが、オンラインゲームと語り部を変えても…
王は、竜を退治し、国を作る。
彼に憧れ人が集まる。
人々は、国に住む代わりに税を払い、そんな人たちから、新たな主役が生まれる。
それは、配信元が作り出した世界にゲーマーが集まり、課金する様子に重なった。
やがて、民衆の中でも力のある人たちがあらわれる。貴族の登場だ。
民衆は彼らに憧れ、彼らの夢に課金する。
それは、ゲーム配信者と重なり、貴族が土地や称号を貰うように、配信元に利用料を払い、オープンワールドに独自の土地とアバターを使うことを許されていた。
少し不安があるが、この設定で書いて行こうと思った。
もともと、中高年や、保護者が、ちいちゃな子供とネットについて話し合える話を考えていたのだから。
昔の、税金を暴力で奪う貴族は合わない気がした。
そう、国を選ぶのは自分であり、そこに所属し、サービスを存続するには、『何か』をやはり払わなくてはいけないのだ。
神様は保護者をモデルに考える。
保護者に嘘をつかなきゃいけないところは、いてはいけない。
ここで、この世界の神を太陽と月にしようと考えた。
ギリシア・ローマ的な世界観で作りたいと考える。
「ごめん、この辺りはまだ、書き込まないで。」
ジオにお願いする。
確かに、惨事を止めたいけれど、16世紀のヨーロッパをモデルに作らなくてはいけない。
それが、始まりだから。
それを終わらせる…剛にサヨナラを伝える物語なのだから。
この時代の雰囲気は壊せない。
一神教から多神教に変えて、世界が上手く動くのか、心配だった。
と、同時に、頭の中で別の物語が動き始める…
我々の『なごみの国』の物語の上の…メタの世界で、一人の男が、21世紀初頭の人気ゲームのサービス終了のゲームデーターを安く買い集めていた。
彼は、トロイを発掘したシュリーマンの様にレトロゲームの世界を愛していた。
別の事業で財産を作った彼は、子供の頃からの夢を実現しようと行動を始めていた。
彼の夢…
それは、小国を束ねて帝国を作り出す事。
Aの会社の世界で、Bの会社のヒーローで冒険するのだ。
それは、文章にすると容易いけれど、ゲームのプログラムを統合するとなると、気の遠くなる作業と金のかかる野望である。
『スキルオープン』の数字も分からない私には、想像もつかない途方もない話である。
関わりたくはなかった。
が、近未来の彼は、既に、ゲームは配信オンリーで、思い出を取っておけない世界で、思い出を取り戻したいと切に願っていた。
ビデオデッキの無かった時代、見られなかったテレビ番組で泣いた私の悲しみより、痛切なのは、オープンワールドのプレイで知り合ったAIとの友情のためかもしれない。
ある日、学校から帰ったら、小学生からの友人のAIが、サービス終了と共に消えてしまう…
これは、私には、生涯理解できない気持ちなのかもしれない。
ヤバイな…
私は、話を中断して立ち上がる。
無駄なことを見てはいけない。
ここはアストラル界…
様々な物語や思想が走る世界。雑念を拾ったら、もとの世界に戻れなくなる。
自分の話に集中しなくては。




