オープンワールド3
結局、一階には目ぼしいものはなかった。
キリスト教がここまで布教されたのか、否かも…
南側にダンスホールみたいな広間、東側にダイニング。北側に厨房などがあった位だ。
やはり、イベント中で人が沢山動いていて北側は遠目で見る程度で止めた。
「2階に行こう。」
私はワクワクしながらジオに言った。
何も探せてないけれど、本当に、2階に行けるのか…
オープンワールドを体感したかった。
良くわからないが、ゾンビは出てこないみたいだし、育成ゲームなんだから、アイテムとかは要らない気がする。
でも…ちょっぴり心配だな…
私は、60年代のアメリカ映画に登場しそうな優雅な正面の階段の前で止まる。
もし、アイテムを持たないで2階に上って、剛がハイスペック王子さまと出会えなかったらどうしよう…
「いかないんですか?」ジオに聞かれてハッとした。
そう、私こそ、作者なのよ、ビビってる場合じゃないわ、他人のシナリオがどうだろうと、私が書き換えて行くのよ。
私の話なんだから、私がしっかりしなきゃ。
階段に近づく、
一瞬、びびりながら辺りを見渡す。
ゾンビは出てこない。
うん。いける。
思いきって階段を一段、上がった(>_<。)
あがれたよぅ
私は、勢いで中段の踊り場までかけあがりジオを見た。
玄関前に吊るされる豪華なシャンデリアが近く見える。
2階には誰もいない。
ゾンビが隠れそうな隙間も無い。
やったわ。
良くわからない達成感が胸に込み上げる。
この先の物語と戦略が頭を駆け巡る。
スマホ…っぽいの、やはり欲しいわ。
この期におよんで、webファンタジーの主人公がスマホを欲しがるのかを理解した。
スマホ、便利なのだ。
この世界は異世界だけれど、火星をテラフォーミングした設定なので、植物とか、言語も地球に近い。
けれど、一階で見かけた文字はアルファベットではあったけれど読めない。
英語でも難しいのに、なんか、発音記号みたいな文字も含まれていて、何語で書かれているのか、理解できなかった。
こう言うとき、スマホの機能でカメラを使って検索できたり、文章の翻訳が出来たら、どんなに楽だろう…
作者になったら…異世界もののプロローグを更新したら、やっぱりほしい、スマホ機能の魔道具。
ここまでの長い道のりを思い返した。
投稿にドキドキしたり、PVに一喜一憂したり、金儲けの夢を見たり、
現実に打ちのめされたり、
読者の存在にやる気を貰ったり…
そうして、ここに…人気ジャンルに私は立とうとしている。
下手だろうが、なんだろうが、継続は力なんだ!
止めていたら、ここには立ってない。
評価はともかく、私は、今、人気ジャンル『異世界恋愛』で、爪痕を残そうとしているのだ。
深呼吸をした。
ここに来て、この世界の『国』の概念が浮かぶ。
ここはゲームを…オープンワールドを模した世界だ。
5年の執筆経験から、思ったのは、これからのゲームは、『劇場型』が登場するのではないか、と、言うものだった。
現在の、物凄い技術で、プレイヤーは何でも出来るようになったけれど、逆に、主人公や内容に賛否が生まれるようになった。
そして、美しい画面や音は、脳や三半規管を混乱させて、『ゲーム酔い』と言う現代病を産み出した。
技術力のある古参と、私のような不器用さんが混在する世界になり、お互いの満足度や価値観も別れてゆく。
うまい人は動画を配信し、それで満足する人も現れる。が、それではゲームが売れなくなる。
ここで、私は、ゲーム会社が提供する世界で、オリジナルの物語を作り、配信する人から、出世払いで、広告収入からお金を貰ったり、ゲームの施設を増やしたりしたらどうかと考えた。
この世界の国王とは、配信元であり、
それを支え、税を払う貴族が配信者。
民草が視聴者をモデルにすると設定する。
これによって、税金とか、貴族の役割も、随分と分かりやすくなる気がした。
世界観が広がる中で、決心した。
やってみよう。今なら出来る気がする。
強い決意がみなぎってきた。
そう、やるのだ。
右手を握りしめる。
応援してくれる読者のパワーがそこに集まって熱く感じた。
私は天を見る。
そして、握った右手を天に向けて解き放ち、あの…夢にまで見た、あの台詞を高らかに詠唱した。
≪スキル、おーぷん!!≫
ああ…やっちまった…
でも、気分は悪くない…
大体、異世界ファンタジーなんて、やり過ぎるくらいじゃなきゃ、面白くないんだ。
ふっ…っと、ニヒルな笑いが込み上げる中、ゆっくりと目を開けた。
目の前には…あの、電工掲示板が…ない(○_○)!!
「えっ…なんで(///∇///)…」
混乱しながら辺りを見ていると、一連の私の以上行動に心配になって階段をかけ上がったジオが横にいた。
「大丈夫ですか…」
「(///ー///)…」
こんなときの『大丈夫ですか』は、『頭、大丈夫ですか?』と言う意味なんだと思う。
死ぬほど恥ずかしさが込み上げてくる…が、いつまでも黙ってもいられない。
「うん…大丈夫だよ。ごめん、なんか、今なら、魔法が使える気がしたんだ。」
私は、恥ずかしいのをこらえながら説明した。
ジオはそんな、おバカな私の説明を健気に聞いてくれた。
「魔法?ああ、貴女は魔女でしたね。」
ああ、異世界でよかった。ジオは普通に流してくれた。
「そ、そうなの、私、魔女見習いでね、まだ、魔法とか上手くなくって…」
とか、なんとか叫びながら、なんでこんな役なのかとボヤきたくなる。
「それにしても、不思議な呪文ですね?」
ナチュラルに会話についてくるジオに、もう、2度と『スキル・オープン』とは叫ばない。と、心に決めた。
「うん…ここで使えるスマホが欲しかったんだ。」
私は、スマホの説明をした。
ジオは、人通り親身に話を聞いてから、
「つまり、エメラルド・タブレットが欲しかったのですね。」
と、納得した。




