オープンワールド
屋敷の扉が閉まり、広いエントランスに立ちながら混乱した。
何か、違和感があるのだ。
なんか、良くテレビで見かけるような西洋の屋敷っぽくない…
何でだろう?
混乱する私にメフィストは声をかけてきた。
「さて、しばらく、ここで別れて行動しましょう。」
「え?」
急に不安が込み上げる。
何だかんだと文句を言っても、メフィストがいなくなるとなると心配だ。
そんな私の顔を見て、詩勝たなさそうにメフィストはしゃがみながら笑う。
「そんな顔をしなくても…ここは、貴女が夢見たゲームっぽい異世界。
オープンワールドですよ。冒険しなくては!」
メフィストは先生のように励ましてくれる。
「オープンワールド?」
その言葉に不安が増大する。
確かに、ラノベや深夜アニメで良く聞く言葉だけど、イマイチ良くわからない。
「はい。好きに動ける別世界です。」
「オープンワールド…イマイチ良くわからないんだけど…昔のゲームと何が違うの?昔は、ダンジョンとか言われていた気がするけど…」
もう、藁にもすがる気持ちだ。大体、ダンジョンも良くわかってなかった。
「ダンジョンは、地下室や洞窟などの冒険域の事…でしょうか…オープンワールドは、文字通り、『開かれた世界』そうですね、貴女はカセットゲームの時代を知っていますか?」
と、聞かれて少しムッとするのは、年を感じるからだろうか?
「…知ってるわ…知ってるわよ、棒で玉を打つテニスゲームとかも…知ってるわ(T-T)」
「そんなにふて腐れなくても…まあ、それなら、カセットゲームから、円盤にソフトが変わって、アバターが360°辺りを見渡せて驚いたでしょ?」
「うん。あれは凄いと思った。」
「そうです。それ、廊下をジグザグに歩いたり、横道にそれたり。」
メフィストの説明に、昔、遊んだゲームの記憶がよみがえる。
「うん。そうね。凄いと思った。でも…あの頃でも綺麗だったけど、今のゲームって値段以外に何が違うの?」
そう、それ、私には良くわからない。ゲームの値段が無料〜課金ものと、1枚高額の二種類があるのは分かる。が、最近、プレイしたゲームは、設定ミスで酔ってしまって先に進めないでいた。
『ゲーム酔い』と言う単語が既にあるらしい。
メフィストは、私を見ながら説明に悩んでいた。
まあ、仕方ない、私も、最近のゲームの微妙な動きとか画像の解像度を判別がつかないのだから。
ネットの解説動画の説明やコメントをワインのソムリエの会話のようにぼんやり聞いてる位なのだ。
「オープンワールドについて、大雑把に説明するなら、『Naw roading…』が無い世界でしょうか」
「ナウ・ロージング…」
「はい、こう言った屋敷の探索などで、階段前で画面にでて来ましたでしょ?」
と、言われて合点がいった。
「ああ、出てきた、『Naw roading…』それから、機械がガタガタいって、待たされるんだよね。」
そうだ、なんだか思い出してきた。
『Naw roading…』昔は、階ごとにクリヤーしてゆくんだった…廊下は、1階の謎を解かないと行けなかったのだ。
そして、謎を解いて階段に行くと、階段前で…待ち伏せしたゾンビに襲われて…背中を噛まれて終わった恐怖体験がフラッシュバックする。
「ねぇ…ここ、ゾンビいるの?私、謎を解かないといけないの?作者なのに…」
私は、長い長いRPGの冒険を思い出していた。
「ゾンビ…は、いませんよ。課題はありますが。」
困ったようにメフィストが笑う。
「課題?」
ああ、やはり、何か、鍵とか見つけないといけないのだろうか…
「はい、『胸きゅんの素敵なロマンス』を探さないといけません。」
夢見るメフィストにドン引きしながら、私はこの先を考える。
一応、ちゃんと人気ジャンル『異世界恋愛』のテンプレで進んでいるはずだ。
ゲームの要素も何かある。
でも、何かが違う気がする。
「話、変わるんだけど、私、手からビームとかでないの?ゾンビ、本当に出てこない?出てくるときに音楽で教えてくれるの?」
ああ、どうしても、頭の中のサバイバルゲームの記憶が離れない。
でも、異世界ものは、ゾンビより、ゴブリンが登場するのだったかな?
「ゾンビは登場しませんよ。遭遇しても悪魔だけです。」
「悪魔…」
ゴブリンと悪魔とゾンビ…どれも遭遇はしたくない。
「大丈夫ですよ。ほら、前に説明したじゃないですか。元々は、お嬢様が憑依する器のディアーヌを育成する内容だって。」
世間話をするように笑うメフィストを見ながら、頭がいたくなる。
「悪魔払いなんて…私には出来ないよ…」
大体、ここ、宗教は何?
「大丈夫。襲ってきたりはしませんよ。何しろ、貴女は私の『下僕』ですから。」
嬉しそうなメフィストを驚いてみた。
「ねえ、日本語間違ってない?私が、あなたの『下僕』にいつなったのよ?」
そう、私、作者である。
一応、この世界の想像主なはずだ。
メフィストは、不服な私を優雅に観察し、そして、ペットを愛しむように細く冷たい右手で私の頭に触れる。そこは…メフィストのキスの痕がある場所だ。
「いえ、間違いではありません。貴女は…私の大切な下僕。誰にも傷つけさせたりはしません。」
メフィストは、恋を語るような濃厚な雰囲気で身の保証をしてくれた。
それから、不服な私を見つめながら、肩をすくめ、「では、『箕属』ではどうでしょう?」
そう言われて、頭の痕の意味を思い出した。
悪魔のキスを受けた者は魔女になる。
魔女は悪魔の手下なのだ。
「うん…なんか、立場は理解した。でも、それなら、魔法が使えないのおかしいじゃない。」
膨れっ面になるのは、仕方ない。
魔法が使えなきゃ、ただで下僕は酷すぎる。
「それは無理です。何しろ、この世界の想像主は貴女ですから、格下の私には能力の付与はできません。」
あっさりと、矛盾する説明をメフィストはする。
「下僕の格下って、なんかおかしいわ。」
怒る私にメフィストは優しく笑いかける。
「確かに、不思議ですね。でも、あくまで貴女より格下、私はラノベ界では最強クラスの悪魔大公。
この世界にやって来る『雑魚』の始末はお任せください。」
メフィストは左足を優雅にひいて、胸に手をあて、挨拶をした。




