スローライフ
メフィストは優しく私に話しかける。
「さあ、剛さんに会いに行きましょう。」
剛…剛に会いに行ける( 〃▽〃)
私は急に嬉しくなった。
この空間が、本当の異界であるか、空想なのか…
どちらにしても剛は死んでいるのは変わりない。
私は彼をネクロマンシーで召喚した。
ネクロマンシーとは、死者の魂を新鮮な死体に降臨させて話をさせる技の事だ。が、今回は新鮮な死体ではなく電子のアバターを作り、その中に魂を定着させた。
これで、本当に大丈夫なのかは分からない。が、メフィストフェレスが立ち会ったのだからアストラル界で彼はさわれる存在になっているはずだ。
それがただの空想であっても…
さよならを言えるのは会えるのは嬉しい。
出来れば奴らしいほのぼのとした終わり方で、完結ボタンを押せるような物語を作ろう!
「うん!剛、どうしてるかな?やっぱ、スローライフしてるの?」
私は昔を思い出して笑った。
スローライフもテンプレの一つだ。
現世でロクでもない生活を終えた主人公が異世界で良い人たちに囲まれて幸せにくらす…。
ただ、剛の実家は農家だったので、農業スローライフの話をすると膨れっ面をした。
『農業なんてちっとも楽しくないよ。朝は早いし疲れるんだからね。』
そんな剛は、異世界ではどうしてるんだろう?
「そんな、露骨に楽しそうですね。嫉妬けちゃいますよ。」
メフィストはからかうように笑いかける。
「で、剛は何してるの?畑仕事は逃げるでしょ?」
以前、お母さんの目を盗んでバーベキューに玉ねぎを持ってきた剛を思い出した。
「へへ、玉ねぎ持って持った来たよ。」
剛は挙動不審な様子でコンビニ袋に玉ねぎを3つ入れて持って来た。
「大きくていい玉ねぎだね?」
と聞くと、剛は自慢げに
「お母さんが作った自家製の玉ねぎだからね!」
と自慢した。
「お母さんに貰って来たの?」
と聞くと、剛は苦笑して
「コッソリ持って来た。」
と笑うのだ。農夫と言うより、ピーターラビットの様な男なのだ。
剛の名誉の為に補足すると、その後、お母さんにちゃんと事後承諾を貰ったとのちに聞いた。
「確かに、畑にはいませんね…」
メフィスト、何やら歯切れが悪い。
「じゃあ、まさか森とかにいるの?」
不安に顔が歪む。まさか、冒険者とか…させられてはないだろうか。
私は人気の異世界テンプレを思った。
転生した主人公はスローライフをしない場合は、冒険者になる。
そして、町の冒険者ギルドで登録して依頼の仕事をする。
低級の魔物を狩ったり、ドラゴンと戦ったりする。
WEB小説では、昔のファンタジーの様に長く、戦うことはない。
大体、なんか手からビームをだして一撃で倒してしまうのだ。
剛はそう言うの、嫌がるに違いないが、可愛らしいヒロインにお願いされたら、デレデレと冒険者登録をしてそうで怖い。
「いえ…お城に…おりますよ。」
メフィスト、なんだか歯切れが悪い。
「お城?なにか、技術屋とかしてるの?いじめられたりしてないわよね?」
私は不安になる。
WEBファンタジーは、追放ものと言うのも流行りなのだ。
勇者が愚鈍な…見た目が愚鈍な主人公を仲間はずれにする。
そう言うの、私は見たくなかった。
「いいえ。剛さんは冒険者ではありません。」
「なんか、さっきから歯切れが悪いわね?どうしてるのよ、剛!なにか、悪いことになってないわよね?」
心配になってきた。
ただ、ほんの少しの間、剛の魂と話したかっただけなのだ。
そして、別れを告げたかった。短い話を作って、小銭を稼いで…長い間の約束を…モーニングをごちそうになりたかった。それだけだ。鬱展開とか、長く、苦しい冒険ものなんて望んではいない。
メフィストは、不安になる私を寂しそうに笑ってみる。
「心配ですか?」
「当たり前でしょ?」
「ご両親に愛されて幸せに暮らしていますよ。」
「は?剛の両親の魂まで召喚んでるの?」
めまいがしてきた。
「まさか、この世界のご両親です。」
「この世界のご両親って、なによ、アイツ、異世界転移してるのよね?」
語気が強くなる。
あんなに綺麗に復元した剛のアバターを…私に断りもなく消してしまうなんて!
メフィストは、怒りに睨む私を切なげに見つめながら、こう言った。
「いいえ!いいえ…貴女の来るのが遅すぎたのです。剛さんは…異世界で新たな命に宿りました。
今のジャンルはTS転生です。」
「てぃー、えす、転生Σ(´□`;)」
てぃーえすって、なんのことだっけ?