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私は決めた。純恋愛ものを書くことにすると!


今回は評価も入選も後回しだ。目的は一つ。


【完結する!】


これの一言だ。


大丈夫。うん。今回は貴族に生まれた美少女剛が、家族に愛され、恋をして結婚する。

読者うけなんて無視。もう、ただ、幸せに剛が結婚するのを一番に考える。


ここにきて、ふと、恋愛のパワーストーンのブレスレットを…剛がはめようとした途端、ゴムが切れてバラバラになったのを思い出した。


いや、気にしてはいけない。

私は、多分、全能(チート)なんだから。

読者(ひと)がどう思おうと、剛を全力で幸せにするんだから。



「気合い入ってますね。」

メフィストが私を楽しそうにみた。

「うん。とりあえず、10万字で完結する話を考えたいからね。」

私は笑う。

思えば、完全無欠のハッピーエンドは作れていない。

それをまずは作らないと、現金化なんて夢のまた夢だ。


メフィストは、そんな私にアイスティを入れてくれた。

ポットから氷の一杯はいったグラスに丁寧に抽出する…アイスティ…

それから、流れてくる西の風を捕まえて精霊に変えると風のピアノを弾かせる。


「王道の恋愛ハピエンは素敵ですね。

悪役令嬢、バットエンドの回避…少し、古くはなりましたが、まあ、それでも人気のテンプレで進めて行けますね?」


は?


私は、ビックリしてアイスティからメフィストに視線を向ける。

「な、なによ、そのバットエンドって…」

嫌な予感がする。

「おや?言いませんでしたっけ?これはお嬢様が貴女の深層意識から抽出して改変した物語ですよ?」

メフィストは、楽しそうにサティの『あなたが欲しい』を精霊の伴奏に合わせて鼻唄を歌う。

なんだか、コイツを使って話を作った方が評価が貰えるような優しげで憂いのある横顔。


なんだか、剛で大丈夫なのか不安になってくる。


「どう言うことよ?」

「カテゴリーで説明するならホラーヒストリーですかね。」

「ホラー…ヒストリー…」

そうだった…剛の誕生って、結構、オカルテックなんだっけ(-_-;)


私は、妻が急に産気づき、医者を探して夫が、大雨のなか、馬を走らせ、年老いたヤーロッパの坊主が悪魔と戦い死んでしまう…

そんな短い物語を空想した。


「はい。何しろ、はじめは、ノストラダムスの物語でしたから。」

メフィストが親しげに話ながら私の横に座る。

私はアイスティをみた。安定する気球の乗り心地に、これが空想の世界だと再確認する。

「そうだったわね…。」


思い出す。

はじめてWeb小説を投稿し、連載に挑戦したことを。次の話が上手く投稿出来ずに間違えたこと。

乗り心地にノストラダムスの物語の間違いに…1話を投稿してから気がついたこと…

剛を座ったまま金縛りにして…書けなくなって放置したこと。


剛は突然死だった。


その事実が、どうにも止めてしまった物語の剛を思い起こさせた。

なんで…あんな話を書いてしまったのだろう?

普通に日常的コメディで良かったのに。


「剛さんは歴史異世界で『騎士ゲオルグ』として旅をする予定でした。」

メフィストの優しげな声が涙を誘う。

「そうね、だから、私はあなたを…メフィストフェレスを作ったの。」

「はい。私はこの数百年、沢山の『役』を勤めてきましたが、貴女のこの役は、好きな役の上位にあげられます。」

メフィストが背中から左腕を回して私の頭を軽く抱き寄せる。

慰めてくれてるの、かな?

「未完で七転八倒してるけどね。」

「でも、諦めずにここまで、開幕まで漕ぎ着けましたよ。」

「ふっ…剛を女にしてしまって…もう滅茶苦茶だけどね。」

涙が出てくる。でも、ふざけた展開だからこそ、さっさと終わらせないと。

そして、少しでも金を稼ぐ。

モーニング。味噌かつ、味噌おでん。剛のぼやいた夢の名古屋飯を1つでも多くアイツで稼いだ金で食う。

エビフライとひつまぶしは、剛的には魅力を感じていなかった。

が、昔たべた、あの味噌味の手羽だけは、警戒していた剛に食べさせてやりたかった…ビールが大好きだったから。


「時代は、16世紀のヨーロッパをモデルに、元のヒロインポジション…剛さんのライバルがカトリーヌと呼ばれる少女にしました。」

「カトリーヌ…確かに、ヒロインっぽい名前ね。」

私はツインテールの青い目の少女を想像した。

昭和の少女漫画なら、お転婆でおませな、可愛らしい少女…多分、平民か、低級貴族。

剛の名前は…さしずめエリザベスとかになるんだろうか?

なんか、こう確率でエリザベスは悪役令嬢の名前になっていた。

が、後に、『若草物語』の大人しい三女のベスが、エリザベスから来ていると知って驚いたんだっけ…


「ねえ、剛はなんて名前なの?まさか、剛じゃないんでしょ?」

私の質問に、メフィストは楽しそうに笑った。

「ディアーヌです。」

「で、ディアーヌ!なんか、それっぽいわね。」

月の女神を名の由来のその名前に、なんか、剛の将来が心配になる。


「ねえ!剛、婚約者をカトリーヌに取られちゃうの?今はやりの『婚約破棄』で。それとも、我々が剛の元の話を…バットエンドを回避するの?」

ああ、心配になる。剛に気ままな生活をさせるわけにはいかないわ。

それじゃ、昔と同じだもの。結婚して、可愛い娘と旦那様ときゃっきゃうふふのハッピーエンドにしなきゃいけないんだから。

「いえ、婚約されているのはカトリーヌ様です。商人の家柄ですが、名門で、和平の為の婚約をしています。アンリ様と。」

「アンリ…あんまり、王子さまって名前じゃないわね。アンソワとか、ヨハンとか…なんか、昭和少女の心を鷲掴みにするようなイケてる名前にだったら良かったのに。」

そう、名前は大切だ。

小説を読み、ちょっと素敵なシーンで読むのを止めて、そのシーンのヒロインの台詞を口にする。


「お慕いしております…○○様…」


ヒロインになりきって、そっと、発するその名前に、じんわりと甘い夢が広がるのだ。

うん。名前は大切だ。

アンリ。アンリなんて、昭和少女の王子リストに無い。


「そうですか?当時のフランス王から頂いたのですが?」

「えっ…(///∇///)」


ああっ、アンリ…ああ、そうね、そうだわね(*ノ▽ノ)

いたわ、いたいた、歴史の教科書にも、ノストラダムスの色々にも…


「気がつかなかったのですね、アンリ、カトリーヌ、ディアーヌ。ノストラダムスの時代のフランスの王、王妃、愛妾ですよ?」

くくっ…と、上品にメフィストが笑う。

「もう、しらないわよ…少女小説を考えていたんだもん。」

文句を言いながら、不安が胸に込み上げてくるのを止められなかった。


もし、当時のフランス…しかも、王宮をモデルに作られた世界だとするなら、戦争に流行り病、宗教問題と問題山盛りだ。


ついでに、ディアーヌって、愛妾ポジションじゃないのっ。

剛、これから王をめぐって女の戦いを繰り広げるわけ?

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