ベストエンディング2
webファンタジーでは、前世で不幸だった主人公が異世界で夢を叶える。
それは、最強の勇者や
農家でのスローライフ…
では、剛の夢は…
剛との最期の会話を思い出した。
活動休止をしてから、仲間と会うのは年に数回になっていた。
連絡はメールのみだった。電話をするほどの用件は無かったし、通話は高い。
それでも、私の作品が一次通過をした時には、剛は電話をくれた。
『卯月さんなら、きっと入選できるよ。』
その、どうにも嘘臭い社交辞令が剛との最期の会話になってしまった。
涙が流れた。
令和の現在、誰でも小説を書いて発表することが可能だ。
その代わり、すべての主人公に幸福は訪れない。
剛が信じたところで、私は物語を完結できないロクデナシだ。
私には入選する…そんな話はほぼ、あり得ない。
そう思いながらこう言った。
『そんなに簡単じゃないんだから。でも、読者賞がとれたら…味噌おでんを食べに行けるけれどね。もう、アンタももう少し喜びなさいよ、』
ああ、どうせ、作家活動唯一の奇跡の選考通過なら、もう、大賞をとれたら…とか、剛に言えばよかった。
まあ、でも、剛の生きてる間に貰えてよかった。
『難しい事を考えなくて良いんじゃない?ありのままを好きに書けば。
どうせ、俺の事なんて、誰も気にしてないよ。』
剛がくれた役にたたないアドバイス…
気にされなきゃ、入選なんてするわけ無いのに。
切なくて、温かい思い出…
身バレが怖かった。
剛がバカにされないように上手くコメディーにする自信もなかった。
webファンタジーの面白味もよくわからないし、ゲームもほぼした事はいない。
正直、これから剛をどうしたら良いのかなんて…
女に転生した剛をどう成長させるかなんて考えつかない。
ただ、書けなくなって放置している物語の剛だけでもハッピーエンドにしたかった。
でも…そのハッピーエンドが分からなくなっていた。
剛は、ロクデナシだけど、素朴て、物語ばえするようなどす黒い欲望も、正義の心も、エロい感情も、キャラダチするほど持ち合わせてはいなかった。
農家のリアルを知っていたから、農業スローライフ系は嫌っていた。
現在、異世界で、悪魔大公メフィストを従えて多分、ビックリするような力を手にしてる…私が、剛のために出来ることが思い浮かばなかった。
剛のしたかった事…
モーニングやらバイキングにいく以外で、何があるのだろう?
ふと、脳裏にフードコートでの出来事が浮かんだ。
若夫婦と、可愛らしい3才くらいの少女。
剛がガン見しているのをたしなめると、剛は言った。
『可愛いね。いつまでも見ていられるよ。もし、俺がもう少しまともだったら、俺も結婚して、あれくらいの可愛い女の子をつれてここに来てたのかな?』
それにどう答えたのかはわからない。ただ、これが剛の夢の答えなんだと…それだけは今、分かった。
私はメフィストに言った。
「私、恋愛ものを書くわ。ただ、人を好きになって、大好きな人に愛されて、結婚する話。将来、小さな娘と家族で食事を楽しむ…そんな姿が読者の目に浮かぶような、そんな物語。
10万字以上の、結婚が決まるまでのただのラブロマンス。でも、ちゃんと完結して、ちゃんと公募に挑戦する。」
涙があふれる。
それは、剛が電話をくれた、あの夏の…私のリベンジでもある。
完結した物語で、正々堂々戦って、落選しても小銭を稼いで名古屋に行くのだ。
色々、危なっかしいけれど、王道ラブロマンスなら、評価はともあれ、完結は出来るに違いない。
そんな私を見て、メフィストは少し切なげに微笑んだ。
「素敵ですね。ラブロマンス…どうか、私をキュンキュンさせてください。」




