地図2
気がつくと、夜になっていた。
夜風の寒さから守るようにメフィストが上着を貸してくれた。
私はバスケットの壁にもたれて座る。
「ありがとう。でも、魔法で私の服を変えてくれた方がいいかな?」
ブカブカの古めかしいコスプレコートを頭からかぶりながらメフィストに言ってみた。
一瞬、メフィストは不満そうな顔をして、それから、私の横に座る。
「つれないですね…こう言うときは、『一緒にはいらない?貴方が寒いでしょ?』とか、可愛らしくきくものですよ?」
メフィストはやるせない顔を作っている。が、私の直感は、おちょくられていると感じている。
「まあ、それはともかく…これで設定も終わりだよね?」
私は嬉しくなって笑う。
本当に、ゲーム関連は設定をするのが面倒だ。
本や映画なら、ポテチとジュースを用意するだけでいいのに。
「いえ、まだ、ありますよ。」
「えーっΣ(´□`;)」
「時代、国、地理について。これを知らなきゃ、お話ができませんよね?」
メフィストはそう言って軽く私に寄りかかる。
レモンの香りがする…
ベルフェゴールの指定なのだろうか…
さわやかなイケメン=レモンの香り…と言うのが、昭和レトロで気恥ずかしい。
「そうだね…じゃ、説明して。」
ああ、きっと、朝になったら、白い歯に朝日を反射させて笑うんだよ〜コイツ。
なんだか、複雑な気持ちでメフィストを見た。
メフィストはそんな私の気持ちなど気にもせずにバスケットの床を電光掲示板に変えてなんか、地図を見せる。
「ここの文化レベルは15、16世紀をモデルに作りました。」
「うん。」
「ヤーロッパです。」
メフィストの説明に不安になる。
「ヤーロッパ…それ、『小説☆野郎』のファンタジーをバカにする時に使われる言葉だよね?」
「おや?気に入りませんか?では、ご自身で後に改変してください。続けます。
一応、天下統一をしたのがヤール大帝です。」
「それ、カール大帝の事?」
私はため息をつく。
ヨーロッパを統一したのはカール大帝だ。
「モデル…でしょうね…。」
「でしょうね…って、アンタが設定したんでしょ!」
全く…イライラする。
それをメフィストがヤレヤレ顔で受けてたつ。
「違います。これは貴女の深層世界…貴女の強い願望が世界の根幹を作り出しているのです。」
「私の…根幹…何よそれ。」
「ここは貴女の作った生命の樹ですから。」
「生命の樹?」
なんだろう?ファンタジー用語?
私はメフィストの顔色をうかがった。
普通、生命の樹でゲームファンタジーというとユグドラシル…北欧神話の不思議な樹の事だと思う。でも、違ったら笑われる。
「はい。アストラル界では、人間の想像力が世界を作り出すのです。」
メフィストが穏やかに話しかけるが、なんだか良く理解できない。
「ふ、ふーん。」
言いたいことが浮かばない。メフィストはそんな私の頭に嬉しそうに頬を乗せた。
「ふふっ。結構、国を作るのは大変なんですよ。」
と、メフィストは手書きの地図を私に見せる。
それは、多分、火星をベースに、ルナ平原のある辺りから広く切り取られた略図のような感じで、ファンタジックな名前がついていた。
勇者の国
百貨の国
美しの国
なごみの国
労働の国
「なんか、ファンタジーな気持ちになるね。」
昔読んだ物語が頭に浮かぶ。
剛は…どんな物語を作り出すのだろう?
「そうですね。なかなか楽しいと思いますよ?
web小説のジャンルを国にするとは!」
「はぁ?」
「はぁ?じゃ、ありませんよ〜本当に、これ、どうするのです?」
いやいや、メフィスト、アンタに言われても…
「どうするも、こうするも…あんたたちが作ったんでしょ?」
私は混乱しながら叫んだ。
「の、予定でしたよ?お嬢様はノリノリで、ギリシア、ローマ風味の宮殿を考えていたのですが、貴女の頑固な設定を変える事が叶わなかったのです。」
メフィストはため息をつく。が、ため息をつきたいのは私の方だ。
「私のせいにしないでよ。大体、ベルフェゴール、ザコすぎない?剛に憑依が出来ないわ、私の?空想とやらを書きかえられないわ!」
と、叫んだ私の口をメフィストは後頭部から左腕を回してふさいだ。
そして、私の右の耳たぶに唇が触れそうなくらいに近づいてた。
「お嬢様を『ザコモン』呼ばわりはいけません。
ひどく、気にしていらっしゃいますから。」
それから、メフィストの説明で、ベルフェゴールはゲームのはじめの方に登場するゴブリンなどの弱い…『ざこ』と呼ばれるモンスターのボスとして定着してる事を教えてもらった。
「おかしいわよ、ゴブリンは北欧の小鬼でしょ?
どうして、中東ベースのベルフェゴールがボスになるの?」
私の質問にメフィストは方をすくめた。
「さあ?人間が考えることなど…私には理解できませんから。」




