明星
金星の軌道まで太陽が巨大化してるΣ( ̄□ ̄)!
私は、少女時代、何度も見聞きした太陽の生涯について思い出す。
太陽…なんかガスとかが集まって時が来ると、中心部分からバーン!と光が生まれ、太陽誕生。
太陽は核融合で熱を放ち、その圧倒的なパワーで周囲のチリや岩石、ガスに影響を与える…
太陽には寿命がある。令和の現在で中年位だろうか。
ここから、核融合が衰えて、膨れて行くのだ。
本当にそうなるかは、私には確認できない。
数億年の単位で変わって行く事柄だから。
私が聞いた噂によると、壮年期には地球の軌道まで膨れて…地球も太陽に飲み込まれるんだそうだ。
金星の軌道まで膨れているなら、太陽も…人に例えるなら、定年間近と言うところだろうか…
こうやって考えると、宇宙単位auと言うのも便利な気がする。
地球まで膨れて、太陽の生涯が終わるとする。それを100歳と仮定するなら、0.7auは70歳くらいと言うことか…
太陽が膨張し、火星の環境が激変した世界観なんだろうなぁ〜ファンタジーの世界なのに、ご丁寧な事だわ。
ため息が出て、夕日の方向を見ると、そこには一番星が見えた。
「宵の明星?」
思わず叫ぶ。が、そんなはずはない。
この設定なら、金星は太陽に飲み込まれているはずだから。と、するなら、
嫌な予感が体を走り、それを察したように、メフィストが私の肩に手を置いた。
「はい。かつての地球です。月は既に地球を離れています。」
チェロのような、低く上品なメフィストの声に、月が年に3cmづつ遠ざかっているのだと言う事を思い出していた。
ああ…仮想空間だと言うのに…涙が込み上げてくる。
「ねえ、『時には母のない子のように』って歌える?」
メフィストにそう聞いた。
メフィストは、歌い始めた。
テノールの伸びやかなその声が火星の夕空に響く。
『時には母のない子のように』は、アメリカ民謡で黒人霊歌である。
物悲しい旋律の中に、どことなく安らぎを感じるのは、この曲が生まれ故郷を遠く離れ、2度と母国の土を踏めないと嘆く黒人労働者の悲しみに寄り添ってきた歌手の気持ちが込められているからかもしれない。
「それにしても…ここまで作り込む必要がある?」
私は歌い終わったメフィストに聞いた。すると、彼は、穏やかに微笑んでこう言った。
「作品に見えない所を丁寧に作り込めば、物語に奥行きが生まれます。
これは、人類が火星を目指す物語。
子供達に向ける未来の1面です。我々が考えようと無かろうと、やがて地球は人の住めない星へと変わるのです。」
メフィストは、そう言って一番星へと化した地球を見つめた。
「アンタに言われても、なぁ…」
20世紀、ハルマゲドンやら、人類滅亡と悪魔に翻弄された私は、複雑な気持ちで空を見た。




