異界2
メフィストに抱き締められながら、私は恐怖を感じていた。
それはそうだ。
私は異界にいるんだから。
webファンタジーは、大体、異世界に行くと主人公は元気になるけど、本来、異世界転移なんてのは怖いはずなんだ。
自分の『あたりまえ』が通用しない世界なんだから。
子供の頃、雑木林や山に入ると、そこには異界への扉はあった。
昔話では、かつてその場所から、異界へと足をいれた人の物語が展開していた。
狐や狸に騙された話から、雀のお宿に招待された話、水神様のお嫁さんになった人の物語。
それは楽しくもあり、どこか、不気味な雰囲気を漂わせていた。
おとぎ話のある場所には、大概、悲しい話の種がある。
それは大規模な水害だったり、行方不明になった子供がいたり。
webファンタジーのテンプレ展開だとしても…海外に行くのでも怖いのに、異界…常識の通用しない世界なのだから。
何とかしなきゃ…
そう、私は、今一度、現世へと帰る必要がある。
また、近く、ここへと戻る時が来るとしても、寿命の尽きるその前に、5年で手にした500円のお金で、名古屋のお得なモーニングを食べに行かなくては。
物語のエンディングを…しっかりと手にして、正気を保ったまま人生を終えたいのよっ。
その為には、物語をきっちりと終わらせる必要があるのだわ。
ここに来て、メフィストが本を売るのに必死だったのかを理解した。
しっかりとした目的を提示して進まないと、物語の世界をさ迷うことになるからだ。
そして、ここは、ガチの神や精霊が見守る世界。
どうせ入選は無理とか、チャランポランな態度で進んでいたら、どうな攻撃をうけるか分からない(>_<。)
ネットでも、突然、インフルエンサーに見つけられてバズったり、炎上したるするように、アストラル界にも天使や悪魔、妖精の女王がいて、こちらに干渉してくる。
干渉されないためには、ネットにしても、アストラル界にしても、正道を歩くのが1番だ。
なんか、面倒くさい…
しかし、やるしかない。
ため息をついて、メフィストを見た。
「私、決めたわ。イラスト集が出版できるように頑張るよ。」
私の顔を見つめながら、メフィストは穏やかに微笑んだ。
モチベーションを保つには、何かのイベントに参加は不可欠だし、やる気を示さないと正道から外れてしまう。落選しても死なないけれど、異界の生物に目をつけられてはその保証もない。
「イラスト集ですか?」
「うん。5年、投稿し続けて考えたのよ、私には千冊の本を売る実力なんて無いわ。
それでも、本を売ろうと考えるなら、自作に使えるイラストが手に出来るアイテムを手にしようと考えたのよ。」
私の顔を見つめて、メフィストは私を抱き締め、頭を押さえた ままの右手で、私の髪を右の耳にかける。
繊細に優雅で、丁寧に髪をかける仕草に、なんだか、とても大切にされている気がした。
「作品が完成していないのに、イラスト集なんてハードルが高くありませんか?」
困った顔のメフィストに、私の方が困る。不必要に色気のある笑顔はやめて欲しい。
「まあ、その話をする前に離してくれないかな?」
男に抱き締められながら語るとか、あまりなれてないんだから。
「もう…怖くないのですか?」
と、甘い視線をなげるアンタが、わたしゃ怖いんだよ。
「こ、怖くなんてないもん(//ー//)とにかく、落ち着いて話したいから離れてくれない?」
頑張って、素っ気なく答えた。自分のキャラに抱き締められて照れるなんて、そっちの方が恥ずかしいわ。
メフィストは、しばらく私を見つめて、少し迷ってから、諦めたようにこう言った。
「もう少し、こうしていたかったのですが…仕方ありません。では、少し早いですが、サプライーズ!!」
と、メフィストは私を軽く持ち上げて気球の外の景色を見せてくれた。
うわー( ・∇・)
それは、美しい夕空で、オレンジ色に太陽が輝いていた。
「何か、お気づきになりませんか?」
メフィストに耳打ちされたけれど、私は、この光景を見るだけでいっぱいいっぱいだった。




