異界
少女時代、夢中になって読んでいたファンタジー漫画、小説は、異界に迷いこんだ主人公は元の世界に戻る。が、webファンタジーの場合、大概は不幸な死に方をして異界に行きっぱなしのエンディングが主流だ。
それは、年を重ねた私には、違和感が全く無いわけではないが、受け入れやすい世界でもあった。
メメントモリ…死神は身近にいて、やがて、私もこの世を去る運命なのだから。
なんて、馴染んでる場合じゃない。うん。小説なら、それでいい。
が、いざ、死神がチラチラと見えてくると全力で逃げようとするのが人間だ。
まだまだ、この世には思い残したこともある。
死ぬ思いでワンコイン稼いだんだから、名古屋のお得なモーニングを食べてから逝きたい。
あの世で剛にマウントってやつをとるんだらっ(>_<。)
それじゃなきゃ、この…500円の価値が暴落してしまう。
負けるもんか!
私は気合いをいれる。
何とか、元の世界に戻らないと!剛の魂も返してやらないと…
私は向かいにいるメフィストを見た。
メフィストは、すっかり昭和のロマンス役者のように品のある美しい笑顔を私に向けていた。
彼は、私のキャラである。
しかし、メフィストフェレスは悪魔でもある。長い年月を様々な作者によって愛された。
では、アストラル界に…この目の前の彼は、どうなのだろう?
これは、ただのキャラクターなのだろうか?
深い谷底に掛かる吊り橋から下を見たような恐怖が背中を駆け抜ける。
アストラル界…あの世とこの世の境にある空間…
ここから出られなかったら…私は、剛は、どうなるのだろう?
地縛霊…その土地に縛られて永遠にさ迷う幽霊。
そんな言葉を久しぶりに思い出していた。
私も…この場所から逃れられなかったらどうしよう?
webファンタジーでは、基本、異世界に行った主人公は異世界に行きっぱなし。
キャッキャうふふの幸せ展開になるけれど、構成が全く違う、魔術による異界に飛んできている私は、ただ、ただ、恐怖でしかない。
このまま、未完で死んでしまったら…私の魂はどうなるんだろう?
「ねえ!早く剛のところに連れてってよっ。」
激しい不安に突き上げられて叫んだ。
メフィストは驚いた顔をしてから、急に幸せそうに笑って私を見つめる。
「どうしました?急に怖くなりましたか?」
メフィストは、そう言って優しく私の頭を撫でる。
「怖くなくなったら終わりよ。生の執着が尽きるって事じゃんか!」
私は、メフィストを睨む。
メフィストは、困った顔をして、そして、急に私を抱き締める!
「はあっ、なにするのよっ。」
「大丈夫ですよ。この気球は落ちたりしませんから。悪魔大公の私が乗る気球ですよ?」
メフィストは私の顔を上から覗きこむようにみつめる。
脱力する。そんな心配していない。
「それ、安心の根拠になるの?」
悪魔の乗る気球なんて、不幸な印象でしかない。
「ひどいなぁ。もう少し、頼って下さって構いませんのに…」
と、なんとも甘い顔を浮かべるメフィスト。
もう、どうなるんだろうこの先は!




