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気球


「私、イラスト集を売ることにするわ。」

私はメフィストに言った。

メフィストは少し驚いた顔をした。

「イラスト…ですか?」

「うん。でも、私が描くんじゃないわ、私は、自分の見たい昭和風味の挿し絵のイラストを描いてもらいたいの。」

「小説を売る前に…いきなりイラスト集を出版すると言うことは…

デビューと同時にグラビア写真集を売るようなものですよ?水着なしの。」

「何がいいたいの?」

私はイラついた。グラビアに例えられてもよくわからない。

メフィストは、何か言いたげに口を開こうとして、考え直すようにしばらく黙ってから、穏やかにこう言った。

「それでは、『基準』になりません。貴女には、あくまで、普通の中年が、普通の生活をしながら真剣に千円で売れると考える物語を作成していただきたいのです。」


「千円の小説…そこが無理なのよ。大体、その見込みがあるなら、一次選考くらい通過するでしょ?

それすら無理ってことは、テーマやあらすじから刺さってないのよ。」

ああ、自分のダメだしを偉そうに言うなんて切ないわ。

「…貴女の場合、テーマよりも字数と未完の方が問題だと思うのですが…」

「(///ー///)そうね、ついでに、こんな無駄話が長々と展開するって事もね!

そろそろ、剛に合わせてよ。web小説はテンポが命なんだから。」

私の叫びに、メフィストは楽しそうに笑っていきなり私を抱き上げると、ぐるりと一周まわって下ろした。

全く、子供だましはやめて欲しいわ。


私は、なんだか自分が益々、縮んだ気がした。

8才くらいだろうか?体が軽く感じるのは良いけれど、メフィストに好き放題にされるのは嬉しくない。

「では、続きは空の旅をしながらと言うのはどうでしょう?」

と、良いながら私の正面からどけたメフィストの向こうには、白と赤のストライプのバルーンが吊るされた気球が登場する!


「き…気球?」

私は、その大きさにびびり…そして、昭和の漫画のアイテムだったそれを懐かしく見つめた。


ドローン全盛期の現在、気球に乗って旅する主人公なんて、確かに、見ることはなくなった。


「さあ、乗ってください。見た目はレトロですが、最新式ですよ?」

メフィストに(うなが)され、ドキドキしながらバスケットの部分に乗る。

「これ、最新の蜘蛛の糸を参考に作られた繊維のかごですから、心配しないでください。」

メフィストは楽しそうに笑う。

地球上で最強の繊維は、蜘蛛の放つシオリ糸なのだそうだ。

近年では、それを商業化する研究がなされているとか、調べたことを思い出した。

「うん…でも、気球なんて…懐かしいわ。」

思わず子供の頃に見ていた漫画の主題歌を思い出した。

魔女見習いの少女が、世界を冒険する話…大好きだったな。

「気球は令和の宇宙科学の最先端ですよ。

大気圏を気球で見に行ける時代がすぐそこまで来ているのですから。」

メフィストは嬉しそうに笑い、気球を浮上させる。


その顔に…世界の旅を夢見た少女時代がフラッシュバックする。


「さて、話してもらいましょうか、イラスト集出すことにしたいきさつを!」

「は?イラスト集??」

不意打ちに混乱した。

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