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カンスト

そう、私は友人を探していた。名前は剛。

アストラル界でメフィストに連れていかれた友人の魂を。


「剛、剛はどうしたのよっ、早く出しなさいよ。」

私はメフィストの胸ぐらを掴み叫んだ。同時に、メフィストの服装が、なんか、シェイクスピアの演劇みたいな派手なコスプレである事に気がついた。


嫌な予感がわいてくる。でも、メフィストは私に胸ぐらを掴まれた事を喜んでいるように見える。

「きゃっ、積極的なんだからっ。でも、作者(じょうし)が胸ぐらを掴むなんて行為、コンプラ的にダメじゃないですか?」

「コンプラ…ええっ…」

私は慌てて手を離す。メフィストは身なりを整えながら立ち上がり、私も立たせてくれた。

「ふふっ。貴女は本当に、人がいい…。悪魔にコンプライアンスなんて、気にしなくても宜しいのに。そんな事がまかり通ったら、カトリックのエクソシストは皆、使い者になりませんからね。でも、そんな間抜けな貴女も好きですよ。私は。」

メフィストは笑って、そして、宙からテーブルと椅子を取り出して私を座らせた。


「ここでは魔術が使える設定なんだね。」

私は紅茶を淹れるメフィストを見ながらワクワクする。少女漫画で見た様な広い草原。静かに渡る風。

なんか、ちゃんと舞台は異世界ものになってる気がする!


「はい。私、これでもメフィストフェレスですから。」

メフィストは笑って私の前にティーカップを置いた。ミルクティー、茶葉はアッサムと言うところか。

「それにしても…凄いわ。宙から簡単に物が出てくるのね!初めて見たわ。」

私は紅茶を飲んでで興奮する気持ちを鎮める。

「そうですか?よくある光景だと思いますけど。」

メフィストはテーブルの向かい側に座り不思議そうに呟いた。

「確かに、異世界アニメで良く見かけるけどさ、やっぱ、自作のは違うわよ。『アイテムボックス』って奴でしょ?これ。」

私はWEB小説のテンプレの設定にワクワクする。

アイテムボックス…なんか、気恥ずかしいなぁ。web発の異世界ものでは、大体、荷物はアイテムボックスと言う謎の空間に押し込む事が出来る。凄いのだと、龍一頭とか、家とかも収納できるらしい。


 「アイテムボックス?私のはあんな、ちゃっちい物ではありませんよ。それに、収納(ボックス)でもありませんしね。向こうさんは、電子世界限定でしょ?私は現世でも出現可能ですから。」

メフィストは少し自慢げに言う。

「そうなんだ!ねえ、じゃ、アレもだせる?なんか、電光掲示板みたいなの。」

「電光掲示板?そんなものを出してどうするんです?」

メフィストに真顔で言われて恥ずかしくなる。

確かに、ミーハーだったわ。いくら、異世界ものの『おやくそく』と言っても、スキルが表示される謎の物体を出させようとするなんて。今回は素直に謝る事にした。

「ごめんなさい。つい、やってみたかったのよ。オープンなんとか!って言うと、自分のスキルとか出てくるやつ。あれ、なんか『異世界』って感じがするじゃない?」

私が赤面しながら答えると、メフィストは驚いた顔をして、そこから爆笑した。 そして、ひとしきり笑うと、立ち上がり、美しい起立体制に入った。


「仕方ありませんね。じゃ、今回、特別ですよ。」

メフィストはウインクを私にして、それから、風の聖霊を呼び出すとバックバンドを頼む。

「やはり、BGMって大切ですから。」

メフィストは私に前置きをした。その行為は、なんだか私に昭和世代の痛々しさを感じさせた。

とはいえ、ドラムの音を合図に何やら派手な音楽がはじまると、もう、羞恥心はふっとんだ。


5年である。


本来な目的だった友人との旅行は…彼が亡くなる事で終了を迎えた。

中途半端な彼をモデルの物語は、その様子が…突然死を思わせて、このまま削除も出来ずにいた。


人は死んだらどうなるのかは分からない。

でも、せめて、私の物語の剛だけは幸せに終わらせてあげたい。喫茶店の先で硬直したまま物語を中断するのは辛かった。


ブックマークも評価も要らない。

剛の魂が幸せだと私が感じて、それを胸に名古屋に行ければ…もう、私はそれでいいんだから。


なんだか、子供の卒業式に出席したような変な感動が込み上げて涙が出てくる。でも、BGM少し昭和戦隊風味だけど…まあ、いいか。

色んなアラに赤面しながらも、綺麗な変身ポーズをとり始めたメフィストにドキドキする…って、オープンなんとかって、あれ、変身はしないんだっけ?


照れ笑いを浮かべながら、期待が高まる。

メフィストは右手を昭和のアイドルみたいに綺麗に天へと伸ばし、空を…なんか、あざと格好いい苦悩の表情で見上げた。


わりとカッイイとは思う、けど、贅沢を言えるなら、BGMの和太鼓?が、少し、昭和感があるから、次、あったら変えてもらおう。


なんて、ボンヤリと考えているとメフィストは、熟練の舞台役者のような、低く通る声で、5年の私の創作活動で何度も夢を見た、あの一言を放った。


「スキル、オーープン!!」


にわかに空がかき曇り、なんかド派手な雷を呼びながら、それは出てきた。

オレンジ色の光の文字は日本語だった…


測定不能


そう書いてあった。私はそれを見つめながら、満足そうに()りきった笑みを浮かべるメフィストと目が合って恥ずかしくなった。


異世界テンプレート…


それは、WEBで始まった新しいファンタジーの昭和で言うところの『おやくそく』と言うものだ。

普通、バカにしたように使われる言葉であるが、書こうとすると面倒なものだ。

実際、友人をモデルに作り始めた物語は、破綻してしまう。

だからこそ、逆に躍起(やっき)になってテンプレを入れ込もうと頑張った。

でも、そこまでしなくて良かったのかもしれない。

だって、おもえば、あそこに何が書かれているのか、私には、理解が出来なかったのだから。

攻撃力とか、なんか、細かい数字の意味がわからない。そんな私に、あの電光掲示板は早すぎたのだ…


って、まて、


私は宙の文字を見つめてドキドキした。


測定不能、測定不能って、日本語だから混乱したけど、ま、まさか、深夜アニメで見た、アレの事ではないだろうか!

あの、なんか、9がいっぱい出てくる…


9999…って、あれは何て言ったかな?なんか、アレも異世界の重要なテンプレートだったはず、ええと…あれは…


『カンスト』そうよ、これがカンストって奴なんだわ。

カウントストップ。略してカンストとは、ゲーム発祥の用語で、あまりにも強いプレイヤーが、従来設けられた測定予想値を外れてしまい、文字の枠が9999…で止まってしまう…まあ、桁外れ、と言った状態になる事である。


確かに、あり得るわ(´-`).。oO


作者の私の実力がどうであれ、メフィストフェレス…シェイクスピアはもとより、ラノベ界でも人気の最強 悪魔(キャラ)なのだから。


ドキドキしながら、私は嬉しくなってメフィストに言った。

「ありがとう。私、初めて見たよ…本物のカウンターストップ。通称カンストって奴を…」

ああっ、年寄りは嫌だわ。涙が、(にじ)んできた。

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