テラフォーミング
「確かに、令和の火星の夕日はうっすらと青く輝いています。が、それは大気によるものです。」
メフィストは役者のように声を張り上げる。私はそれを黙ってみていた。
メフィストは続ける。なんか、すごくバレエを思わせる優雅な動きで。
「でも、令和の火星では人間がすめませんから。私達、頑張りましたよ(はーと)」
(はーと)って…言わなくても良いんだけど。
「私達って…ベルフェゴールとあなたって事よね…
長くなるなら、なにかお茶とお菓子をちょうだいよ(T-T)」
私は諦めムードにぼやいてみた。
メフィストは、そんな私をとても嬉しそうに笑顔を向けて、なんか、素敵なテーブルと、プチケーキ三種が乗ったお皿と…紅茶をポットサービスで出してくれた。
これは本格的に長くなる…そんな予感を胸に席についた。
「さて、何から始めましょうか…ああ、本当、テラフォーミングって、大変なのですよ?火星は大気も薄いですし。磁気圏を失った火星では、まずは、地磁気を何とかするところからはじめませんと…」
メフィストは長々と、なんか楽しそうに語り、私の興味が薄れそうになるとプチケーキの説明を始めた。
黄色いクリームの四角いケーキはモンブランのようだった。と、言うか、イモが混ざっているらしいから、栗きんとんのケーキと言うところか…
中のクリームが甘くなくて、濃厚な味なのに、後味はスッキリとしていた。
「ファンタジーなんだし、磁気圏の話はスキップしようよ。まさか、ここから、45億年の話とか…しないよね?」
ため息がでる。地球誕生の話とかは好きだけど、そんなの始めたら、いつまでも剛に会えない。
「はい。勿論、それに45億年も経過したら、太陽が死んでしまいますから。」
メフィストは私の隣で紅茶を手にする。
ちなみに、銘柄はダージリンだそうだ。
「本当に…テラフォーミングの話なんだね。」
私は自分も火星のドキュメンタリーを調べたりしたことを思い出していた。
「はい…と、言いたいところですが、全てを同じにはしませんでした。そんなことをしたら…人類滅亡がやってきちゃうので。」
メフィストはクスクスと上品に笑う。
シミひとつない、白い肌。これで男前なのが驚きだ。
私の経験から行くと、色を白く、しかもシミやシワとかを無くすと、のっぺりとした顔に…バカ殿みたいな面白顔になりがちなのだ。
確かに、メフィストは堀が深いけれど、それだけじゃなく、なんか、精悍とした雰囲気がある。
「いかがしましたか?」
メフィストに顔を覗きこまれて慌てる。
「い、いや、ハルマゲドンって、なんだろうと、ね。」
とっさにそんな言葉が口をついた。
まさか、バカ殿と比べていたなんて言えやしない。
「ああ…あれですよ。」
メフィストは空を指差す。
そこには、ガリバー旅行記に登場するような、空飛ぶ島があった。
「フォボス…いや、ポボスか。」
私は時計のように進むその衛生を見つめた。
火星の衛星フォボスは、火星との距離が近く、その為に半日で火星を公転してしまう。
やがて、ロッシュ限界を迎えて、火星に落ちる運命なのだ。
「はい。詩的な世界観にするために、そして、ロッシュ限界を遅らせるために軌道を外側に広げ、公転周期を24時間にいたしました。 フーガも月にあわせて公転周期を約28日に変更しました。」
メフィストは自慢げに空を見上げる。
「い、いいんじゃないかな…。」
なんか、面倒くさい話になりそうな予感がした。
その衛星の計算を私にしろ、と、いうのだろうか?
そうだとしたら、分かりやすくしてくれたんだとは思う。
つまり、ポボスは、空の時計だと思えばいいし、フーガは、カレンダーを地球単位に合わせやすくしたのだと思えば良い。
とは言え、一年が686日と約倍なので、その辺をちゃんと理解していないと…感想欄で指摘されるかもしれない。面倒くさい(-_-;)
うん、楽になったと考えよう。
地軸の事とか、傾きは…忘れよう。うん。
なんか、異世界に行くのも、物凄く面倒なんだとポボスを見ながら思った。