チュートリアル
「つまり、アンタはチーターなんだ。」
私はメフィストに聞いた。
チート…なんか、不正行為でゲームをする事らしい。
なんで、不正行為をすることをwebファンタジーではもてはやされるのか…
私にはなんだかよく分からない。
少ない知恵を絞って考える。
ゲームの場合、なんか、不正なプログラムを使うことらしい。
だから、ファンタジー世界では、魔法を使って好き放題する事を表すのかもしれない。
だとしたら、強大な魔力で無双出来るメフィストは、異世界ファンタジーのチートキャラと言う事じゃないのだろうか?
「卯月さん…発音が獣です。」
「け…ケダモノ…(///ー///)?」
「…チーターです。チーターだと猫科の肉食獣になりますから。」
メフィストは少し大袈裟にアクセントを変えて説明をし、不機嫌そうに私を見る。
全く、細かいんだから。
「まあ、良いわよ。理解できたから。私はチートを使わずに話を作るわ。それより、剛に会いに行こうよ。」
本当に…設定は飽きてきた。もう、剛に会いたい。そして、サラッと話を作って終わらせたい。
「全く…」
メフィストは私に冷たい視線を投げて話を続けた。
「貴女、ビデオゲームの説明書を読まずにゲームをして秒で殺されてますよね?」
メフィストの追求にグッ、となる。
最近、あるゲームソフトを懐かしさとネタの為にプレイした。
なんか、色んな設定を適当にやって、ゲーム画面に酔って雪の道で遭難したままそれっきりだった。
「そんなことないよ。」
ゲームの私はモンスターも出てこない雪道で気分が悪くなって終わってるんだから、間違いではない。
「そう、ですか…」
メフィストは疑り深く私を見て、諦めたようにため息をつく。
「わかりました。では、私の質問に答えられたら、連れていきましょう。」
メフィストの笑顔が…不安をあおる。
「それ…外れても罰ゲームとかないよね?」
「ありませんよ。では、行きます。ここでの一日は何時間でしょう?」
「24時間。」
と、答えて、慌てた。『ここでの』と、わざわざつけるのが怪しい。
「正解!」
が、メフィストは華やかな笑顔でそう言った。
「では、一年は何日?」
「365日でしょ?」
反射的に答えると、メフィストは渋い顔をする。
「不正解!」
「え?」
「686日でした。」
メフィストの意味深な笑顔が気になる。
「686日って…なんだか半端だよね?」
と、良いながら、なんか、昔、聞いたことがあるような気がする。
「ふふっ。ちゃんと、設定を聞きたくなりませんか?」
メフィストは嬉しそうに空を見上げる。
「ここは…2つの月があるんですよ。」
私も空を見上げた。
「ポボスとフーガです。別名はフォボスとダイモス…」
メフィストの言葉に…ある惑星が浮かんだ。
「火星…火星をモデルにしてるの?」
私は嫌な予感と共に、自分の創作活動が走馬灯のように流れて行くのを見ていた。
初めてのweb小説。
子供の頃の名作の主人公…
彼らの崇高な目的を模して、私も子供たちに夢と知識がつくような小説を書きたいと願った。
オバマ大統領は、2030年代に宇宙飛行士を火星に送る目標を掲げていた。
だから、次の夢を…火星に繋ぐことにした。
火星の知識がつくように、舞台を火星モデルで考えていた。
剛を間抜けな勇者に…
いや、最近流行りのwebファンタジーの主人公に異世界転生させようと考えていた。
『俺の話なんてつまらないよ〜』
剛はそう言って、フライドポテトを頬張った。
『いいのよ〜別に、二万円稼げれば…ネットには、マニアックな人もいて、500円くらいなら、出してくれるかもしれないじゃない。たった50人、世界中から客を集めればいいんだよ?』
私は自信満々にそう言った。
でも…そんなに簡単には話は作れなかった。
webファンタジーなんて、卑屈な奴の夢で誰でも書けるって…そう、ネットでは言われていたけれど…
実際に書くのは…難しかった。
まさか、剛モデルのキャラが異世界に逝く前に…
本当の剛が、アイツが先に逝っちゃうなんて!
「これは…私の物語なんだね。」
涙が出てきた。
精神深層世界。私の心の世界を視覚化した世界に、私は…本物の魔術を使って到達している。
「はい。全ては…貴女の夢から出来ているのです。」
夕方の光に揺れながら、メフィストは儚げな美しい笑顔で私を見た。
私は泣きながらそれを見返した。
「全部?改変入りまくってる気がするわ。
火星なのに、夕日が赤いし、何より、剛、なんで剛が女になってるのよっ(>_<。)」
私の叫びが草原を突き抜けていった。