チート
光属性…光の性質を持つと言う意味。
が、この場合、神と悪魔なら、神属性…もしくは、善い者と言う意味だろうか…
剛は面倒くさがりで、ヒーローみたいな人間ではない。
努力は嫌いだし、遅刻はするし、決して好むべき性質ではないけれど…悪人ではない。
悪さと言っても、半分に分けた私の分のパンも狙うとか、小5レベルの悪さしかしない。
「光属性ってわからないけど…アイツ、天気に好かれていたからなぁ…そんな意味では光属性かもしれないね。」
私は剛とのエピソードを思い出していた。
とにかく、奴は天気に好かれていた。
フリマの前に奴と喧嘩をすると雨になるし、仲直りすると晴れる。
外仕事の場合、バイトが決まると台風の進路が変わった事もあった。
まあ、100%とは言えない。
一度、フリマの途中で雨が降りだし、剛にメンチカツを奉納したら晴れたことがあった。
それは、本当にドラマのような絶妙なタイミングで、調子にのった剛は、
「飲み物をくれたら、雲も消してやるよ。」
なんて、手を空に向ける。
私は呆れながら、どうしたものかと考えたけど、その瞬間、これまた劇的タイミングで、スコールと雷が来て、逆に『神様っているのかもしれない』なんて思った。
「ですよねぇ〜」と、笑ってからメフィストは話を続けた。
「なにしろ、お嬢様がヤル気満々で剛さんをTS転生させて憑依出来なかったのですから。」
メフィストはクスクスと思い出し笑いをする。
あまり、良い印象は持てないけれど気持ちはわかる。
剛はお人好しで間抜けな所があるから、つい、剛を自分の良いように利用しようと近づく人間はいた。
とくに、仲間の1人の山臥は剛に酒を奢らせようとあの手、この手と頑張っては、逆に奢らされていた。
剛は不思議と守られていた。で、自分のもくろみが外れると酷く嫌な気持ちになるが、人がやられると、不思議と愉快な気持ちになるのだ。
「で、剛にはいつ、会わせてくれるの?」
私の質問に、メフィストは笑った。
「説明がおわったら。」
「もう、そればかりで、話が始まらないと誰も見てくれなくなるよ〜もう、いいよぅ〜」
子供の姿に変わったからか、私はなんだかグスりたくなる。が、そんな私の頬ををメフィストは優しく両手で包み込むと、グッ、とわりと強引に自分の顔に向けさせる。
少女漫画なら…昭和のものならキスシーンになりそうな展開だが、私は何故か次の攻撃の防御に走る。
「な、何よ。」
にらむ私にメフィストは甘く微笑みかける…
それは、同じく甘い少女小説ものを欲していたベルフェゴールに作られた、美しい笑顔で…一瞬、『こういうハイスペックな奴は大体、当て馬にされるんだよな。』なんて、ぼんやり思った。
「そんなにPVが欲しいなら、私の顔でも描写してください。いつもより、10は増えると思いますよ?」
メフィストはからかうように笑う。
少女漫画なら、ここで頬を染めて『きゅん!』と、平仮名で文字をとばすところだけど、web作家の私からは飛ばなかった。
「10…たったの10?悪魔大公なんだから、バンと総合ランキング100とかいって欲しいわね。」
と、強気で返したものの、本当に何もおこらないと恥ずかしいから、奴が断ってくれないかと祈る。
メフィストは、私をじっと見て、困ったような、からかうような顔でこう言った。
「良いですが、それもチート行為になりますよ?」
「チート?」
私は何が言いたいのか、理解が出来なかった。
webファンタジーでよく出てくるワード『チート』魔法と対で語られてるから、魔術を使う…みたいな意味なのだろうか?
「はい。いえ、私はチート行為を否定もこうていもしませんよ。
力のあるチーターは、そこから加速して本物になる奴もいますから?」
メフィストは確かに、私を非難している。
が、私の頭には、動物と、けも耳と、歌手がぐるぐると回っていた。
「チーターって…加速するって…動物のこと?」
恐る恐る聞いてみた。
チーターは肉食の猛獣だ。まさか、ハンターとか、そういうゲーム要素がこの世界にはあるのだろうか?
「チートをする人間をチーターと言います。
これは、ゲーム用語で、良い意味では使われません。ズルをして勝つ、卑劣な人間の事を指す言葉です。」
メフィストは、先生がしかるように頭ごなしに言ってくる。
「え?ズル?なんか、無双とか、無敵って意味じゃないの?」
私には不正行為を題名にバーンと書いて宣伝する物語で良いのか混乱する。
ついでに頭の中では、ブラスバンドの指揮者のけも耳少女が歌っている。
そんな混乱する私に合わせて腰を屈めたメフィストは、優しく説明する。
「確かに、無敵ですよ。不正なプログラムを使って、他のゲーマーより高得点が狙えます。が、それを嫌う人間が批判するのも受けてたたなければいけないのですよ?」
「そう…なの?」
私は深夜アニメの色んなキャラを思い出す。
でも、ヒーローに不正を突きつけて文句を言うような敵は出てこなかった。
「そうですよ。いいですか?仮に、私が貴女の作品を100位にランキングさせましょう。」
「うん。」
「すると、たくさんの人が注目します。感想も複数書かれます。」
「か、感想(○_○)!!」
「ええ、紳士的な批判者は、100位から上の人間には容赦がありませんから、それを受けてたたねばなりません。」
「はぃ(>_<。)」
「もう、分かりましたね?実力があれば、そこから先に登り詰めますが、この設定も不確かな話を100位に入れたら、炎上間違いなしです。その時、逃げるのは一番の悪手です。
どんなに恥ずかしい話でも、素直に説明するのが再起の鍵になります。」
「恥ずかしい…って…」
私は恐ろしくなる。
多分、魔法なんてないから、100位に入る事は無いと思う。が、メフィストの顔が不安をあおる。
「それは勿論。これが一般の…規約違反でないことを説明するのです。『私はネットを使って不正行為はしていません。アストラル界で私の悪魔大公メフィストちゃんを呼び出して魔法をかけたのです。』って。」
いやぁぁ〜Σ(´□`;)
頭が真っ白になる。
やはり、トップランカーの世界は恐ろしい。
私はメフィストにゴメンと謝った。
メフィストは最後にこう付け加えた。
「私達悪魔は、地獄の業火は消すことは出来ません。ただ、痛みを無くして差し上げることは出来るのです。」
メフィストの台詞をネットの炎上に置き換えた。
炎上で火だるまになったとき、メフィストがしてくれるのは…
何を言われても折れないメンタルなのか、
何も感じないサイコパスな心なのか…
それとも…精神崩壊なのか…
どれにしても…良い年をして、アストラル界とか悪魔召喚なんてマジレスはしたくないわ。
精神は穏やかに過ごしたい。
底辺万歳…本気で思った。
でも、メフィストの顔の描写で本当にPV10アップするかは一度、試したいところだ。
上がらなかったら笑ってやろう。
私はそう思って気持ちを落ち着けた。