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第二話 再会 昇格


 「まずは一言。はっきりさせましょう。そのいかがわしい衣装は私のデザインではありません。貴女の深層心理ですからっ。」

レビューが終わって放心の私に近寄ったメフィストが不機嫌そうに言った。

「え?私!!冗談でしょ?こんな変な服、深層心理って言えば、なんでも受け入れるとか、考えないでよね。いくらなんでも、こんな、少し動くとパンツが見えちゃうスカートって、何よっ。」

私は叫んだ。リアルな私はBBAではあるが、今の姿は超絶美人である。ここは強気で文句を言ってやる。

 それを聞いて、メフィストは渋い顔で私をみて、怒ったように上着を貸してくれた。中世の西洋風味の長い丈のメフィストの上着は私のスカートの丈より長く、それがなんだか悲しかった。

「マイクロミニという言葉、ご存知ですよね?」

メフィストの恨めしい言葉と共に、60年代、海外のほっそりとしたモデルさんがミニスカートで颯爽と歩く姿を思い出す。

「うん。」

仕方ないから頷いた。でも、だからって、飛躍しすぎじゃないか。

「日本でも流行りましたよね?」

「多分。」

「アニメや、アクションドラマで、ミニスカートのスパイの女性が戦う姿を手を叩いてみていませんでしたか?」

メフィストの言葉の追求に、昔、うちにあった足の生えたブラウン管のテレビを思い出した。

縁側の引き戸を全開に、蚊取り線香をつけて、みていたドラマ。

 かっこいいスパイものや、刑事ものには、足の長い女性の活躍がつきものだった。ミニスカートとロングブーツてハンドバックで敵を投打しながらハイキックを喰らわす、その瞬間、私とお父さんは花火でもみてるように歓声をあげ、私はお母さんに怒られていた。

 はしたない。

そういうお母さんを古い人だと思った。私は、新しい時代に、こんな風にカッコよく男たちと戦う自分を想像した。

 したけれど。


 「確かに、そんな時代もあったけれど。でも、」

と、いう私の次の言葉を、メフィストは姿見を私に見せる事で黙らせた。

襟の大きなノースリーブのマイクロミニのワンピース。

 どことなく、子供の頃のワクワクを思い出させた。

 

 「そうです。貴女の探偵のイメージはこの時代のものなのです。断じて、私のデザインではありませんから。」

メフィストはそう言って、一気に私の衣装を変えてしまった。

 膝下10センチのプリーツスカートと、上品な、多分、シルクのブラウス。

上品で、常識的な衣装に、男性の純情を見たような気がした。

 女だからって、家事を押し付けるなとか、いろんな事を言ってしまうけれど、男性だからって、エロい格好がなんでもいいって人ばかりではないんだよな。と、少しだけ反省した。

「ごめん。そしてありがとう。」

私は一応謝った。そして、思った。


 「いえ、こちらこそ、少し感情的になってしまいました。悪魔というだけで、みんなTPOを考えずに脳死状態で肌色成分全開だとは思われるのは心外なので、つい、感情的になってしまいました。こちらこそ、すいません。」

メフィストが素直に謝ったのに驚いた。

「うん、そうね。あんたって、わりと清楚系女子が好みなんだね。」

私は控えめな色合いの上品なワンピースに好感を持ってそういった。

「むっつり助平とか、考えてませんか?」

恨みがましいメフィストの顔より、懐かしい死語に笑えた。むっつりスケベって、随分、聞いてなかったな。

「思ってないよ。ありがとう。この服、歩きやすいわ。」

私は気分と話題を変える。なんでもいい。とりあえず、一節のプレゼンが終わったのだ。コーヒーでも飲んで少し休みたい。

すると、メフィストが私の前に立って、少し照れたような優しい笑顔で

「面白いプレゼンでした。ご褒美をあげましょう。」

と、頬にキスをした。

「もう、そういうご褒美はいいんだよ。」

私は心底、気持ちが萎える。頬にキスされて喜ぶって、3歳児じゃないんだから、もっと、実用性のあるものを、と、思った時にどこからかナレーションが聞こえる。

〈ウズキン。レベルアップ!黒本をゲットしました。〉

チャララン。と、音がして、私の手のあたりが輝き出して、黒革のA4版の本が登場する。


 「おめでとう。グリモワールを手にしましたね。これで、ガニメデさんの状況をいつでも見ることができますよ。さあ、本を開いて呪文を唱えてください。『スキルオープン』と。」

メフィストは、昔見た魔法少女に魔法を教える、なぞマスコットのような口調で私に言う。が、私は黒革の本を手に渋い顔になる。

「えー、また、『スキルオープン』なのぉ。」

と、ボヤいてしまった。


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