スパダリ
悪魔が赤ん坊に憑依する…
昭和のオカルトを思い出していた。
web小説では、いとも簡単に異界に人が転生、憑依をするが、昭和のオカルトでは、その道のりは長い。
まずは妊婦を探す。
気の長い話だと、悪魔に花嫁を斡旋するところから始まる。
どちらにしても、異種混合は難しく、出産するまでなんか、色々とやっていた気がする。
ベルフェゴールはどうしたのだろう?
「まあまあ、そんな深刻な顔をしなくても、」
「するわよっ!剛…女の子に転生で、悪魔に憑依って…もう、ホラージャンルを脱出したいんだよぅ(>_<)」
私は昔みた映画のシーンを思い出す。
悪魔に憑依されると、不気味な肌色になり、なんか、凄く器用な体制で動き回ったり、首がまわったりするんだよなぁ…
「なに、笑ってるんですか?」
メフィストに言われてハッとする。
生前、借金で首が回らなかった剛が、悪魔つきの転生で、首が180度回るようになる…ぷっ…
なんて、バカな事を考えていたなんて…言えないわ。
「わ、笑ってないわよ。はぁ…どうなるのよっ?お城で転生って…まさか、姫に転生して、政敵を悪魔の力で抹殺するとか、教会の坊主を殺して回るとか…嫌よ。」
ああ、昔のホラー映画が脳裏を駆け巡る。
エクソシストとか、出てこないわよね?
それとも…エクソシストの少年と…美少年との恋愛もの?
…ちょっち…いいかも(///-///)
ああ、昭和の少女漫画はオカルトサスペンスものあったなぁ…
懐かしい読み切り短編を思い出す。
「そうですかぁ…随分とにやけていますけど。」
メフィストの意地悪を笑って誤魔化しながら私は話をする。
「で、一体、今は、どうなってるのよ?」
私の質問に、メフィストは、ハッとして渋い顔をした。
「結果的には、お嬢様は憑依出来ませんでした。」
「憑依出来ないって…それ、良い事なのよね?」
なんだか、不穏な顔のメフィストが心配になる。
「どうですかねぇ…私的には、お嬢様に憑依されて欲しかったのですが。」
「いやよ!悪魔の憑依なんて!もう、苦節5年、やっとの思いで人気ジャンルに投稿したのよ…」
私は泣きたくなる。
ホラーは嫌いではないが、なんか、ファンタジーの世界で美少女剛が、政敵を呪い殺してゆくとか…
そう言うのは、もう良いのだ。
私はweb小説のきらやかなテンプレの話をみたいのだ。
「ええっ…そうですか?剛さん、悪役令嬢ですよぅ…」
「あ、悪役令嬢!?って…なに!」
「今流行りのテンプレで作りましたから…お嬢様がノリノリで。
で、スパダリが出てきて、転生美少女、剛さんを溺愛して甘やかすんですよ…」
「スパダリが、溺愛して…甘やかす(-_-;)まずいわね。」
なんか、知らないけど剛を甘やかすとロクデナシになる。
「地獄…ですよ。」
真顔で悪魔に地獄と言われる剛って…
「確かに、スパダリって奴、なんか、魔法とか使えるの?」
スパダリって、ゲームのモンスターとかかな?
著作権は大丈夫なんだろうか…
不安な私を見て、メフィストはため息をつく、
「もしかして、スパダリ、分からないんですか?」
なんか、凄くバカにされた気がした。
なんだろう?凄く人気なんだろうか…
「ごめん、私、ゲームとかしないんだよね…たまに、ネットで用語とか調べたりはするんだけど。
東欧の…妖怪?」
西洋のモンスターはわりと知っているので、東欧のマイナーなモンスターだと思った。
よくわからないが、ドラキュラのような、イケメンには違いない。
メフィストは、私の話を聞いて爆笑する。
「ち、ちょっと、笑うこと無いでしょ?ねえ、スパダリってなによぅ…画家?プログラマー?賢者とか?」
叫ぶ私の頭をメフィストが撫でる。
やっぱり、私、縮んでる気がする。
「スーパーダーリンの略語ですよ。」
メフィストは優しく教えてくれた。
「スーパーダーリン?なにそれ?」
「少女漫画のイケメン枠のキャラの事ですよ。ハイスペックで格好いい…」
メフィストは嬉しそうに目を細める。
「えー。なんか、やだなぁ。王子さま枠の事でしょ?スパダリって、なんか、風呂屋みたいで軽い気がする。」
思わず叫んだ。
読者には不快でも、仕方ない。
作者の私はイメージで話を作るのだから。
いや、これが、飲んだくれのオッサンとか、学生なら、実際に知ってるから良いけれど、
王子さま枠の男なんて…
蜃気楼のように、見たことの無い存在なんだもん。
なんか、凄く…自分の全ての高潔でイケメンのイメージを総動員して作り上げないと出来ないに違いないんだから、イメージの元になる言葉は大切なのだ。神経質にもなる。
「風呂屋みたいって…だからって、『ヒカルの君』だの『ロビンフット様』だの言われても、今の娘には刺さりませんからね。」
メフィストは楽しげに笑った…
ロビンフット様って…
私だって言わないわよ!