第一話 いとしのローズマリー幸終
果たしてガニメデはインディゴの素敵なケープマントのメンズの仲間になるのかはわからない。が、メンズの一人に連れて行かれた。
ディアーヌは屋敷へと歩き出す。まだ4歳とは思えないしっかりとした足どどりが不憫に感じた。
本シリーズが始まるとは、戦争が起こるという事である。
ゲーマは喜んでいても、NPCは喜んでるとは限らないのである。
生前、家族に面倒をかけていた剛に変わって、ディアーヌは民草の生活を、領地をもまる為に人質と政略結婚の為に王城へと向かうことになる。
「ねえ、この話、本当にウケると思う?令和のトレンドは…」
「ドアマットヒロインです!」
メフィストが速攻答える。
「何、そのドアマットヒロインって。」
私は渋い顔になる。最近、ラノベのタグに加えられたワードに『ドアマットヒロイン』と言う言葉が加わっていた。なんでも、海外では人気らしい。
「ドアマットヒロイン。それは、踏みつけられ痛ぶられるヒロインの物語です。もちろん、ハッピーエンドで終わりますけれど。」
メフィストは苦笑する。
「つまり、シンデレラみたいな話よね?はぁ。少し前は、もっとゆるい、逆ハーレムのモテモテものが流行り立ったと思ったのに!私はそう言うのでいいんだけどな。」
恨みがましく呟く。もう、剛の、ディアーヌの悲しむ姿なんて見たくない。
「では、そう導いて行かれたらいいのですよ。これは映画ではないのですから。ゲーム。それは、プレイヤーが自ら切り開く物語なのです。」
メフィストはC Mのナレーションのように高らかに宣言するけれど、それがどうしたって気分だわ。
モヤモヤしている私の耳にイベント発生のBGMは流れ、少し離れたプラタナスの木の裏から、金髪碧眼の美しい少年が登場する。
王子 アンリの登場だ!アンリって付箋が出てきたから間違えない。
「あれが、アンリなのっ。」
「しぃぃぃ。イベントはしっかり見てくださいよ。」
メフィストに口を押さえられて私はだまってアンリを見る。
少しカールのかかったショートカットの髪。凛とした眼差し。ブルーの絹地に白の絹糸で全体に施された刺繍が見事なチェニックを纏い、少し意地悪く笑う。
「気がつからなかったようだな。」
推定10歳とは思えない、しっかりとした口調の俺様気質のセリフである。
「よろしゅうございました。先ほどの攻撃は姫へのものだと思われたようですし。」
年配の従者がそういう。暗殺者が狙っていたのはアンリだったと言うのだろうか?なんだか、きな臭くなってくる。
「何者か、即刻、調査せよ。」
アンリ、キリッとした良い声である。でも、そんなもんに気を取られている場合じゃないのよ、気がついたの。ここで!私はメフィストの足を掴んだ。
「ちょっと、ここで、アンリが登場するって、さっきの分岐、ディアーヌの選択、間違っていたんじゃない⁈」
そう、ディアーヌは動くか、動かないかの選択にあっていた。で、動かなかったからガニメデが登場したんだけれど、もし、動いていたら、アンリと出会いのイベントが発生したってことじゃないの?知らんけど。
「恋の辞書に過ちなんて言葉はないのですよ。」
「そんなナポレオンのパクリみたいな言葉で私は騙されないわよ!全く。ここでアンリに出会っていたら、簡単にバットエンドを回避できたんじゃないの?」
私は食いついた。そして、頭の中では過去のストーリーゲームのトラウマを思い出していた。始めの、しょうもない分岐の選択が、後々、極上のハッピーエンドに行けないという悲しい事実を。が、メフィストはそんな私を呆れてみていた。それから、私を優しく自分の足から離して、目線を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「バットエンドなんて、恋には無いのですよ。それは失恋だったとしても…
恋の舞台に上がれないことに比べたら、全てはベストエンドなのです。」
一瞬、昔の少女漫画の一画面を思い出した。渾身の1ページ丸々1コマ使った伝説のドアップ。あれは次の日、クラスでセンセーションを産んだけれど、それに匹敵するような、どことなく影の漂う美しい微笑み。
「…そういう、言葉遊びはいいからっ。もう、人生は1度きり。ゲームとはいえ、ここで読者に飽きられたらコンティニュー出来るかわからない世界なんだもん。そして、私の寿命にも限りがあるんだから、この一回にベストエンドを決めたいの!!!」
私は叫んだ。結構な時間がリアルでは経過している気がする。急がないといけない気がした。メフィストは少し真面目な顔で私を見つめた。それから、諦めたようにこう聞いた。
「で、どんなハッピーエンドをお望みですか?レディ。どのような結末も、なんなりと叶えて差し上げますよ。」
こんな派手なセリフをマジレスされるとなんだかギョッとする。私は考えた。
剛の幸せって、ハッピーエンドってなんだろう?
「ごめん。確かに、ハッピーエンドなんてわからないわね。バットエンドを回避しても、あの俺様アンリだとアットホームにはなりそうもないし。」
私は少し悲しくなった。
剛の願い。それは田舎の郊外のショッピンモールのフードコートで家族で食事をする、そんな日常。姫として王族とコスチューム大河の主人公になる事ではない。悲しんでいると、メフィストが突然笑い出した。
「はは。アットホーム!確かに、アットホームな話にはなりそうにありませんね?」
「笑い事じゃないわよ。なんでフードコートで楽しい週末が、こんな、とんでも大河に引き込まれるのよっ。ああ。」
私は悲しくなった。それは突き詰めれば私のせいなのだ。
私は初めての連載に失敗して、それがノストラダムスの話だったから、こんなになったに違いない。現実の地味な恋愛の話でよかったのに。
落ち込む私の肩にジオの手が置かれた。
「大丈夫、この世界にも美味しいものは沢山あるんだよ。プロバンスをモデルに作られた和みの国では、海産物がふんだんに取れるし、オリーブオイルもワインも美味しいんだよ。それに、素敵な絵画や演劇、さまざまな国からの輸入品も港に降ろされるんだ。君も知ったらきっと気にいるよ!」
ジオはそう言ってピザのマルガリータの初めてとか、トマトとじゃがいもが栽培されていることを教えてくれた。