第一話 いとしのローズマリーイベント
それから、色々とあった。
私の乱入でディアーヌの一人称がおかしくなったので、ワタクシに統一する事になった。
そして、ジオとメフィストが エメラルドタブレット の呼び方を巡って喧嘩になり、なんと、ジオが勝った。ジオの方が先にエメラルドタブレットを名乗っていたので強かったのかもしれない。
で、私の電光掲示板?はサファイア・リングになった。
なんか、ジオに聞いたところによると、他の、正規でゲームを始めていたら、普通、タブレットの守護精霊は、ラファエルという美男がなるのだそうだ。一瞬、美術の時間で見かけた美形の画家を思い出したけれど、どうも語源は天使のようで、天使ラファエルは旅の守護天使なんだそうだ。悪魔と契約している私は天使は使えないみたい。で、そんなこんなをして、やっとオープニングを始めから見た。
これは乱世の時代、愛と夢を信じ、恋する人と結ばれる少女の物語だと知った。
なんだか、面倒なことがありそうだけれど、仕方ない。
私は昭和生まれの日本人なので、仏教の死生観に影響され、剛の人生の精算をディアーヌが受ける事になった。
なんだか可哀想だが仕方ない。
これを『業』と、昔は呼んでいた。
この言葉は、のちにカルト宗教などでもよく利用されたので、コンプライアンス的に今でも使えるのかは分からないが、多分、チベット仏教からの言葉だったと思うから、真面目に読者が信じなきゃ、使う事自体は問題ないと思う。
まあ、仏様がいても、いなくても、この世界はゲーム設定なので、剛の生前の行いが影響する。
剛が母親に随分と甘えて生きていたので、ディアーヌは生まれてすぐに母親を亡くしてしまう。
まあ、これは、この時代、よくある事なので、仕方ないとも言えるが、剛の行いとか言われると辛い。
剛を少し恨んだが、私も死んだらそうなるんだと言われると、何も言えなくなった。頑張ろうとは思うけれど、日頃の行いを正すのは難しい。転生の時に不幸だったらごめん私としか言えない。
私はともかく、ディアーヌはウキクサのような剛の人生から、かけ離れたように公爵令嬢となり、この乱世の時代、国の安定のために民草を守る重責が課せられる。
全く、剛のやつは!と、文句ばかりだったが、あの美しい姿が剛の生前の無邪気な心の影響だと言われると、なんだか複雑な気持ちになる。
で、ディアーヌは4歳になっていた。
この時、メタの世界では新ゲームが発売されたので、ここから4年の長い戦いが始まる。
ゲームキャラ現王フランソワは、シリーズの猛者を連れて旅にゆく。
帰ってくる頃には、ディアーヌは生き残った、勇者のだれかの花嫁にされてしまう。
これがバットエンドとは限らないけれど、メタな世界で観察する私には回避したいバットエンドにしか思えなかった。
で、花嫁修行と人質として王城に行儀見習いに行かされる。
ディアーヌは、4歳でわずかな召使を連れて王城に行かされるのだ。
でも、彼女はそれを受け止めていた。
剛が生前我儘だったから。ディアーヌは健気で良い子だった。
なんか、本人の魂だって言われても、なんか腹が立つ。
まあ、ディアーヌの運命には、私も悪役令嬢ものを描きたいとか考えていたのも影響しているから、剛の魂と話ができたら文句を言われるんだとは思う。
乙女ゲームの悪役令嬢としてバットエンドを回避する。
この設定は、私にかかるとこうなるようだった。
まあ、このままではバットエンドなのは確かだ。
ゲームで勝ってきた人は、どんな人物かわからないが、嫌なやつだと思っていた方が安心だ。
回避するには、人造人間(NPC)のアンリと結ばれるしかない。
いまのところ。
あとは白、黒騎士を召喚することもできるらしかった。
白騎士は、企業が用意したプロゲーマーが動かす騎士で、勝者と戦って姫を結婚から逃してくれる。そして、次の4年まで姫を守ってくれる。
もしくは、本編ゲームで勝ち進み、のちの4年を企業お抱えの白騎士を目指すゲーマーの動かす黒騎士。この場合、力がわからないので、姫の運命を賭けるにはリスクもなんだか高いらしい。そして、ゲーマーの宣言がない場合は黒騎士は登場しない。
何が強いのかわからないけれど、そういうものらしかった。
で、現在、ディアーヌはマロニエの林で領地にサヨナラを言っているのだ。
そこを、私がさっき突進してしまった。
が、そんな事はなかったように話は進む。
「さようなら、木漏れ日さん。」
「さようなら、どんぐりさん。」
「さようなら、森のみなさん。」
ディアーヌは可愛らしく、そして、少し痛々しい少女妄想を広げながら思い出の領地に話しかける。
きゅん。と、不覚にも切なくなる。一挙一動が可愛い。
髪の色はチェリーブラウンというのか。桜の木の皮の様な上品な少し赤みのある茶色でセミロングくらいだった。
そして、歌う。
綺麗な声で。
生前、歌は嫌いだとカラオケでビールをかっくらっていた剛の面影はそこにはない。澄んだ優しい声で何か、故郷の歌を歌う。ディアーヌを私はしばらく見つめていた。
と、そこで怪しいBGMが!(◎_◎;)
これはイベント発生の知らせに違いない!
私はドキドキした。
選択型の物語ゲームをしてから何年、何十年経っただろう?
今度は間違えられない。
あの、夜更かし必須の半年で私は学習した。
選択型のゲームは、初期の分岐が大事だって。
初めのしょうもない選択を間違っただけで、絶対にグランドエンディングには辿り着かないのだ。
今度は負けない。そう、ディアーヌを幸せにするんだから。
BGMが終わると、ディアーヌの向かいの林から、弓のヤジリがキラリと光る!危ないディアーヌ!!
思わず飛び出しそうになるのをメフィストに抑えられる。
「イベント発生です。もう、飛び出さないでくださいよ。」
メフィストに止められて私は我慢した。そして、分岐の付箋を探した。
やはり出てきた。
暗殺者が狙っている!君ならどうする?
・逃げる
・動かない
私は逃げる方を選んだが、何も起こらなかった。
「これは、育成趣味レーションゲームです。令和のアストラス界のね。だから、選択はNPCのディアーヌが自ら選択します。すごい世の中ですよね。」
メフィストは嬉しそうだったが、私はNPCとディアーヌを言われたことが悲しかった。剛が生きていないのを突きつけられているような気がした。
少しして、ディアーヌはスッと背筋を伸ばした。
どうも、動かない選択をしたようだった。