トリップ
気だるい目覚めだった…
気がつくと、私は草原にいた。爽やかな風が流れて、なんか草のいい香りがした。
ここはどこだろう?
ボンヤリとした記憶をたどる。
私は…友達を亡くして、後始末をしようとしていた。
未完の作品を終わらせるために。
主人公を友人にしてして、書けなくなってそのまま放置していた。
でも、そのままには出来なかった。
私は物語で友人を異世界にトリップして硬直させたまま放置していた。
その友人は、突然死した。その事を聞いて、胸がいたくなった。
人の理はどうにもならない。
でも、自分の作品は進められる。友人には会えなかった…だから、物語の主人公とはけじめをつけて逝きたい。
と、そこまではマトモな考えだった…
が、そこから私はアストラル・トリップを試みた。
昭和のミステリーマガジン『みい・ムー』のスペシャル付録の導くままに…
何やってるんだろう。
今思うと、馬鹿馬鹿しい。なんで草原に横たわっているのかも分からないけれど、家に帰ろう。
アストラル・トリップの副作用で、まさか、夢遊病みたいに歩いてきたりしてないわよね。
ふいに怖いことを考えて身震いをする。
何にしても、いい歳のおばさんが、野っ原で寝てるわけにもいかない。
上半身を起こした。と、次の瞬間、何かに地面に押し付けられた!
犬Σ( ̄ー ̄)!
大型犬に飛び付かれたと思った。
が、違った。白人のイケメンだった。
は?
首をふる、頭をひやす、いやいや、白人のイケメンって、アンタ、確かに、最近、うちの田舎にも外国人がすんでるよ、でもさぁ〜
「ああっ、やっと会いに来てくれたのですね?」
イケメンは、何やら甘い言葉を発しながら私を抱き締める。
こういう場合、どう対処したらいいのだろう?
キャーと悲鳴をあげるにしても、向こうは若いイケメン、私はおばさんである。どう頑張っても私の味方はいそうもない。
まあ、草原だから、若い娘でも助けは来ない気がする。
「どうしたんですか?うすらボンヤリして。私ですよ、もう、ボケるの早いんだから。貴女の可愛いメフィストちゃんですよぅ。」と、叫ばれてなんか、色々、頭の回路が繋がってきた。落ち着く、男を良く見る。良く見たら、それほど、イケメンってわけでも無さそうな、黒髪の青年が笑っている。
「メフィスト!あんた、本当に、私のメフィストなのっ。」
と、叫んだ。
ここ、オカルティストと作家には大切な所である。
昔から、ホラー、悪魔ものを書いてると、色んな不幸や、精神がやられる、なんて噂がある。
私は一年をかけて、メフィストフェレスを作品に投入するために改変したのだ。
悪魔から、異郷の神へと。
メフィストは、答えなかった。
なんか、黙って私の両肩を掴んで渋い顔をしていたが、それから、感極まった感じで抱き締められた。
「そうですっ。そうですとも、私は貴女のメフィストちゃんです。もう、本当に会いたかった。」
耳元でイケメンが囁く優しい言葉。
でも、ときめく暇なんて私には無かった。
だって、絶対、私、背中の贅肉が消えてるもの。
格闘技をかけられるような、なんか、気合いの入った抱かれ方ではなく、メフィストの長い腕が、少し余裕を見せながら、軽くS字曲線に触れる程度で優雅に抱き締められている!
何がおこったのだろう?
空は青く、どことなく、異国の風を感じる。
懐かしい夏の歌謡曲が脳裏に…浮かんでる場合じゃないんだわ。
そうよね、そうよ、悪魔に抱かれる感覚があるってことは、ここは異世界!
あの世とこの世の狭間の世界じゃないのっ。
と、言うことは。
私はメフィストの胸ぐらを掴んで思わず聞いた。
「ちょっと、剛は、つよし、どうしたのよっ。」